唄が聞こえる。優しい、波の子守唄のように柔らかい唄がまるで導かれていたかのように耳へと届く。
懐かしい歌声を聞いているような気がする。そう思って僕は目を凝らして辺りを見まわした。
暗闇の中で光るのは、つい先ほど焚いた送り火の柔らかい灯りのみ。人影など見えはしなかった。
「誰か、そこに居られるのですか?」音の無い世界で少年の声は響いた。返事は、ない。
村のあちこちの家の玄関先で、同じように光る送り火の光が切なげに揺れる。風は優しく吹いている。
盂蘭盆会の時期も今日で終わり。つい先日庭先で焚いた麻幹の臭いも鼻に残っているというのに。
切ない気持ちに包まれながら、僕はただ一人燃える送り火を見つめていた。
―――リン、鈴の音が聞こえる。
聞き覚えのある鈴の音に、思わず少年は振りかえった。
(あの鈴の音は――)たしか彼女の出棺の時、彼女の遺体の胸元に沿えたはず。そう思って耳を疑った。
『お元気そうで、何よりでございます。』
彼女の声が聞こえる。懐かしい、優しい声だ。1日も忘れたことの無い、彼女の声が耳へと届く。
「お鈴…ですか?」姿は見えない。だが、耳元で彼女の笑い声が聞こえる、気がする。
『また、来年お会いしとうございます。迎え火焚いて、まっていて下さいませ』
リン、と鈴が揺れる。柔らかい声に包まれながら少年は暗闇に向かって微笑んだ。
「もちろん、貴方のこと一時も忘れた事など御座いませぬ故。」
頬をぽたりと水滴が伝う。少年は空を見あげて目を細めた。
「また来年、お会いしたい。」
音の無い世界で、もう一度鈴の音が響く。今度は迷いも無く空気に溶け込んでいった。
いつも幻で見る彼女の笑顔を、この目で見た気がした。(オリジナル―お盆に 貴方と)