アーサー王伝説簡略解説


「シロウ、どうしたのですか? いきなり十数冊の本を持ち出して」
「いや、セイバーってアーサー王だから世界的に知られた英雄だろ。どんな感じなのかまとめてみようって思ってさ」
「なるほど、それは興味深い。私もどのように語られているのか知りたいですね」

「んー、じゃあ今のところ分かってる部分だけでいいか?」
「ぜひ」
「あ、それなら私も参加するわ。聖杯戦争前にどの英雄がどんな歴史を歩んできたのかちゃーんと勉強してきたしね」
「それって真名を特定するためだっけ。すごいなイリヤは」
「リンもやってるはずよ。他のマスターがどうだかは知らないけれどね」

「じゃあ力不足かもしれないけれど、よろしくなセイバー」
「分かりました。アーサー王物語は様々な形に分かれていますから、私が送ってきた人生とはかけ離れているかもしれませんしね」
「じゃあいくわよ」


歴史上のアーサー

紀元前55年、ユリウス・カエサル率いるローマ軍がケルトの民が住むブリテンに初めて攻め込む。
紀元43年、クラウディウス帝がブリタニアの占領を開始、交戦したケルトの王カラタクスが51年に敗北。
60年、ケルト(後のブリタニア)の女王の一人だったブーディカが戦争を起こし、敗北する。
当時のローマは殺戮、破壊、略奪を行っており、荒涼たる世界を<平和>と名づける、と当時のケルトの王は証言。

122年、ルキウス・アルトリウス・カストゥル。ローマ第6軍団(ブリタニア方面)の司令官に任命。
同年、ハドリアヌスの命でスコットランドとの間に大防壁を構築。やがてサクソンの進入が激化する。
313年、コンスタンティヌス一世がキリスト教を公認。
395年、ローマ帝国が東西に分裂。410年にはついにローマ帝国軍はブリタニアから退却をしていくのだった。

数世紀にもわたる支配によってブリタニアはケルトの者達とは別の存在になっていった。
退却の後、様々な民族がブリテン島に上陸、土地を侵略していく。
後ろ盾がない以上独力でどうにかするしかなかった。


「年号ばっかなのはローマ帝国が深く関わったもので、ブリタニアとローマ帝国は切っても切り離せないわ。
 元々はブリタニアもケルトの民の土地だったんだけど、そこにローマが攻め込んだ事でアイルランドとかとは全く別の道を歩んでく事になったのよ。
 ちなみにローマ人はブリテン島をかつてはアルビオンって言ってたのよ。よくアルビオンって名前出てくるでしょ?
 『ブリタニア列王史』では最初の王はシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』でおなじみのブルータスよ」
「ブルータス、お前もか! ……だったっけ」

「けど決定的な侵略になったのはクラウディウス帝になった時よ」
「ローマのやり方はサクソン人とは違って綿で首を絞めるような手段も使ったし、純粋な侵略行為もしたな。
 イケニの女王ブーディカがそれに対して反乱を起こして、一度は敵の首都ロンディオン(後のロンディニウム)を攻め落としたりもした。
 けれども結局敗れたんだよな」
「はい。敗れはしましたが、私の他にも侵略者に立ち向かった女王がいた事は心強く思います」

「セイバーのステータスにあった『ローマ人であるアルトリウス』はこのハドリアヌス帝に仕えていたローマの将軍アルトリウスの事だと思う。
 ハドリアヌスの大防壁を作ったおかげで北側(スコットランド)からの異民族に攻め込まれる心配が薄くなったんだ」
「『ブリタニア列王史』では初めてブリタニアの人たちをキリスト教徒にしたって言うけれど……うさんくさいと思わない?」
「えっと……あ、そうか。ローマにはローマの神がまだいたんだっけ。だからまだキリスト教は異教だったんだ」
「ネロ帝を始めとして逆に厳しく取り締まったのよね。これは後世の付け足しと思った方がよさそうよ」

「そう言えばセイバーってキリスト教徒なのか? アーサー王物語って今の段階だとキリスト教の騎士物語ってイメージがあるんだけど……」
「それはですね、私は――」
「ダメよシロウ。公式設定で明かされてないんだから返事は期待しない方がいいわ」
「メタ発言!?」

「……で、分裂した西ローマ帝国がゲルマン人の大移動で大苦戦をしているおかげでブリタニアが維持できなくなったのよね。
 あきらめて退却しちゃったのよ。
 で、後ろ盾がなくなっちゃったブリタニアの人たちは単独でアイルランド、スコットランド(ビクト人)、そしてサクソン人と戦う事になっちゃったのよね。
 ブルターニュの方もフランク人が攻め込んでて、四面楚歌状態の中どうしよう?」
「そんな時、颯爽とブリタニアの人たちを結集させて敵に立ち向かい、一時の平和を勝ち取った人物がいたんだよな」
「ええ、それこそが私だと――」
「ぶー、実は違うのよセイバー」
「えっ!?」

「サクソン人に大勝したのはアルトリウスじゃあないのよ」
「そんな! イリヤ、十二度にわたる激戦を行いベイドン・ヒルで勝利を収めたのはこの私です!」
「俺もそうだと思ってた。違うのか?」
「そうよ。アーサーの元になったとは言われている人物だけれど、アルトリウスの名前ではないわ」

「では一体……」
「誰なんだ?」

「それがセイバーのステータスにあった実在する『ブリタニア人』、アンブロシウス・アウレリアヌス。後にアルトリウスの叔父になる人物よ」

「その方は父上の兄上、マーリンが仕えていた王の中の王ではありませんか。なぜ叔父上が私の役を?」
「まずアンブロシウス・アウレリアヌスについて始めて記したのは聖ギルダス(実在の人物)の『ブリテン衰亡記』で、
 この時にサクソン人たちを打ち破ったのは彼と書かれてるのよ。
 これが530年頃に記したもので、最も古い資料なのよね。
 この時はアンブロシウスは王ではないわ。でもブリタニアの人々が彼の元に集った事は間違いないようね。
 セイバーのステータスにもあるでしょう? 『名将』だったって」
「そ……そうだったのか……」
「それは存じていますが……」

「更にアンブロシウスはその時に紫色の服(ローマで上級クラスの者が着る)を着てたから、
 ローマ皇帝、テオドシウス帝や強奪者コンスタンティヌス三世と何らかの関係があったとも言われているのよね。
 こっから名将が王になった原因かもしれないわね。
 あ、この時には修道僧が記しているからアンブロシウスはキリスト教徒になってるわ。
 そもそも当時にはローマ帝国がキリスト教を国教としていたからつじつまは合うんだけれどね」
「じゃ、じゃあアルトリウスの名前はどこに出てくるんだ?」

「830年頃にネンニウスが記した『ブリトン人の歴史』よ。
 ブリタニアの将軍アルトリウスが十二回サクソン人と戦い、全てに勝利を収めたって書かれてるわ。
 古文書を参考にしたらしいけど現存はしてないようね。僧侶が書いたから当然キリスト教によって脚色されてるけど。
 最後のベイドン・ヒルの戦いが最大のもので、この戦いで敵の覇王は死亡、
 サクソン人を外れに追い込んで半世紀ほどにわたる平和を手に入れる事に成功したのよ」
「ん? じゃあそれにはアンブロシウスって人は出てないのか?」
「出てないわ。だからこの時には既にアンブロシウス⇒アルトリウスって考えてもよさそうね。
 名前の間違いなのか、それともアンブロシウスを超える英雄を作りたかったのか。今となっては謎よ」

「イリヤ、その……覇王ってなんだ? 王と何か違うのか?」
「セイバーが『ペンドラゴン』でしょう? これについては後で説明するとして、セイバーは絶対的な王だったわけじゃないわ。
 『王の中の王』、王を取りまとめる盟主だったわけよ。
 サクソン側も同じ。他の王を従属させるほどの王を覇王、『ブレドワルダ』って呼ぶのよ」

「……私達も奴らとは小競り合いを含めれば数え切れないほど剣を交えました」
「バーナード・コーンウェル版の『エクスカリバー・最後の閃光』では襲ってくるブレドワルダはサーディックとエレ。
 最近の映画『キング・アーサー』では襲ってくるブレドワルダはセルディックとシンリックになってるわね。
 ローズマリ・サトクリフ版の『落日の剣』ではケルディックになってるけれど、ヴォーティガーンの息子になってるから除外ね」
「……随分と諸説あるな」

「Cerdic、翻訳者の違いよ。サーディック、セルディック、ケルディック。同一人物でウェセックス初代の王、後に英国を統一する家系よ。
 シンリックはその息子。ベイドン・ヒル当時のブレドワルダはまだセルディックで、519年から534年が在位よ。
 AElle, Ella。エレ、エアラとも言うけれど、彼こそがアルトリウス真の敵で、サセックス王の彼は477年から514年までブレドワルダだったわ。
 ちなみに『カンブリア年代記』では518年前後にベイドン・ヒルの戦いがあったと伝えられてるわ。
 過去十一回もの戦いでエレもブレドワルダを維持できなくなっちゃったのよね。セルディックとずっと争ってたと考えた方がいいかもね」
「ええ、私もあの戦いでサクソン側の王を倒しています。多分エレと呼ばれている方でしょう」
「じゃあそれが決定的になって、以後サクソン人は攻めて来なくなったんだな」
「そうね。アーサー王の治世のうちは」
「……」

「サクソン人がブリトン人からブリタニアを奪って3世紀ほど、
 新たな侵略者であるデーン人からブリタニアを奪還した王アルフレッドの勅命で歴史がまとめられているわね」
「あれ? それ世界史でもやったぞ。確かアルフレッド大王ってウェセックス王――」
「そう、侵略者だったセルディックの直系がブリタニアを奪って、定住した後に故郷を守りきった上で歴史をまとめたのよ。
 それが890年頃で『アングロ・サクソン年代記』ね」
「て……敵側に私達の歴史をまとめられるとは……っ」

「それによれば443年、ピクト人(北のスコットランド側の敵)に対抗するためにサクソン人を傭兵として招いたって記されてるわ。
 けれどもそれが最大の愚策だった。豊かな時があるブリタニアはサクソン人にとっては宝の山。
 その時の王は頼りなかったし、裏切ってロンディニウムから東のブリタニアを制圧したのよ」
「443年……ちょうどセイバーの二代ぐらい前の王辺りだけれど……」
「シロウ、叔父上がそんな事をしただなどと二度と口にしないで頂きたい。例えあなたであっても許しがたい」
「ご、ごめんっ。そんなつもりはなかった――」

「安心なさい。正確には三代前よ」
「三代前……ではまさかあの――」
「ええ。セイバーの祖父コンスタンティヌスと叔父コンスタンスを謀殺して王座を奪った強奪者ヴォーティガーンよ」
「謀殺って……一体何をしたんだそいつ」
「それについては後でまとめて話すわ。長くなるし。先に進めちゃうけれどいいわね」
「……分かった」

「あ、そうだ。ちなみにデーン人の侵略に関しては漫画『ヴィンランド・サガ』でも参考にしてみてね。
 ブリトン人、つまりウェールズだって他人事じゃなかったんだから」
「漫画? ……ライダーか?」
「そうよ。ライダーって書物の質がいいわよね。購入と図書館を使い分けてるもの」
「……あれってアルトリウスの子孫が出てくるからなぁ……(ぼそっ)」

「さて、970年頃まとめられた『カンブリア年代記』で540年のカムランの戦いが始めて記されるわ。つまりアーサーの最後が記されているわけね。
 ここでメドラウト、モードレッドの原典が初登場。アーサーとメドラウトという人物が共に倒れる事になってるわ」
「共に倒れる? 戦いあったんじゃないのか?」
「まだこの時にはアーサーの息子設定も反乱設定もないわ。ただ二人が倒れた事だけよ。二人が仲間だった可能性だってあるのよ」

「そうだったのですか……。では私が体験したカムランの惨劇は?」
「それに近いものはちょっと後回しね。順を追って説明したいから」
「意外と後世なのですね」
「否定はしないわ。まだ歴史書の段階で、アーサー王物語ではないから」
「……」

「1019年、ゲツノウィウスによって記された『聖ゲツノウィウス伝』。大した事は書かれてないわね。
 けれども重要な変化がついに現れるわ」
「重要な変化?」
「アーサーが『名将』から『王』となった瞬間よ」

「なんで『名将』が『王』になったんだ?」
「勝利を収めたサクソン側はともかく、敗北したブリトン側の資料がないからよ。当時誰がどの国の王だったかなんて分からないわ。
 もはやウェールズやブルターニュに押さえこめられたブリトンの人たちが実在の人物から心の頼りとして『アーサー王』という英雄を作り上げていったのよね。
 そしていつの日かアーサー王はカムランとかで受けた傷を癒して戻ってくる、そう信じたのよ。
 『イングランド史』にも記されてるしね」
「人々の想いがこめられた英雄アーサー王、か……」

「さて、ではいよいよさっきのシロウの問いに答える時がやってきたようね。
 これなしじゃアーサー王は語れないわ」
「それって、さっきからイリヤが言ってたやつか?」
「そう、『ブリタニア列王史』よ」


物語になったアーサー

「それによればコンスタンティヌスはセイバーの父親ウーゼルで三男と次男で後の王アンブロシウスを預けた直後に刺殺されてるわ。
 その後で王座についた長男コンスタンスは幼いからってヴォーティガーン、そこではウォルティギルヌスね、が摂政みたいな座に収まったのよね。
 で、部下に寝込みを襲わせて、ぐさっ」
「なんて奴らだ……!」
「落ち着いてくださいシロウ。憤る気持ちは私とて同じです」
「でもセイバー。おまえのおじいさんやおじさんが殺されたんだろう。なのに――」
「イリヤ、続きをお願いします」

「続きは次のような感じよ」


時の王、コンスタンティヌスとその長男コンスタンスがヴォーティガーン(ウォルティギルヌス)の扇動により殺害され、彼がブリタニアの王となる。
だがビクト人に対抗しきれなくなったヴォーティガーンはサクソン人の長、ヘンギストゥスの娘(レンウェイン)を妃とし、彼の軍勢を傭兵として招き入れる。
それに対抗したヴォーティガーンの息子ヴォーティマー(ウォルティメル)はブリトン人を結集して対抗し追い払ったが、母であるレンウェインに毒殺される。
再び王座に付いたヴォーティガーンを待ち受けていたのはヘンギストゥスの裏切りだった。
和平会議に集まった諸侯をことごとく切り殺したのだ(サクソン側も何人も殺したが)。

ヴォーティガーンは急いで対抗するためにディナス・ミリスで砦を作ろうとしてうまく作れない所に現れたのが、アンブロシウス・メルリヌス(マーリン)だった。
若き日のマーリンは二頭の竜(赤き竜と白き竜)を見て、やがてブリトン人が敗れるとの予言を行う。
と同時にそれまでヴォーティガーンの治世は続かないとも断言する。

その予言どおり、遠くブルターニュに逃れていたコンスタンティーヌの息子、アウレリウス・アンブロシウスと弟ウーゼルがマーリンと大軍を伴って現れる。
アウレリウスはヴォーティガーンを追い詰め、ついに父と兄の敵を討ち取る。
その上でヘンギストゥスらサクソン人をも打ち破り、「ブリタニア全ての王の中の王」となるのだった。


「どう? ハッピーエンドでしょう」
「私達とはいささか違いますが、おおむねその通りでしょう」
「まあね、この時には既にサクソン人と大戦争してました、って言うより征服王アーサーの話になっちゃってるのよねー」

「征服王アーサー?」
「聞き捨てなりませんね。私の戦いはブリタニアの人々を救うためにあって、断じて他の民を支配しようとしていたわけではありません」
「この話ではそうなってるのよ。サクソン人との決着なんてグェネヴィアと結婚する前に終わってるんだから」
「そんな……」
「どんなところをアーサー王は征服したんだ?」

「そうね。東ブリタニアに始まってスコットランド、アイルランド、ノルウェー、ルーマニア、フランスで一旦打ち止め。
 彼に自ら忠誠を誓った王も結構いて、オークニー、ゴトランディアを始め、スペインもだったっけ。
 これで戴冠式を済ませて平和になりました……だったらまだよかったんだけどねー」
「えっ、まだあるの?」
「シロウだってトマス・マロリー版ぐらい読んでるんでしょう? ローマ遠征がまだよ。
 セイバーの強靭・無敵・最強ーのターンはまだ終了してないんだから」
「ぶっ」

「凄まじい人望よ。ローマ皇帝が朝貢命じてそれを跳ね除けて軍を集めた時に援軍としてやってきたのはざっとこんなものよ。
 ギリシア(東ローマ帝国)、アフリカ、スペイン、リビア、エジプト、バビロニア、シリア、他多数!
 それで一気に攻め込んだのよ。ローマに向かってね。で、結局アーサー王がローマ皇帝になったってわけよ。
 これで騎士道物語の始まり始まりー……にはならないで、いきなりモードレッドの反乱」
「えっ? ランスロットとかガウェインとかは?」
「もう既に原型はでてるけれど、『ブリタニア列王史』では組み込まれてないわ」
「モードレッド、ですか……」

「『ブリタニア列王史』は1136年頃、ジェフリー・オブ・モンマスによって記されたんだけど……ご覧の通り創作が盛りだくさん。
 この頃からアーサー王はサクソン人を倒したウェールズの英雄ではなくて、英国での英雄になっていくわ。
 ちなみにセイバーのステータスにあるローマ遠征は『ブリタニア列王史』を元にしているわね」
「じゃあサクソン人の王だったセルディック達は?」
「エレは出てきてないわ。セルディックがかろうじてケルドリクスとして出てくるぐらいね」

「ところでイリヤ、マーリンが予言した赤い竜って……ウェールズの国旗になってるやつか?」
「そうよー。赤い竜はブリトン人の象徴。白い竜はサクソン人の象徴。
 赤い竜が最初優勢だったけど白い竜が盛り返したから、マーリンはブリタニアの負けを予知できたのよ。
 ドラゴンを悪の象徴にしていたキリスト教がウェールズに入ってきても赤い竜だけは神聖なものとして今も残っているわ。
 ちなみにセイバーの竜の因子はその赤い竜から授かったものよ」
「え? そうなのか?」
「はい。私はブリタニアの王として立ちあがったのでそれを所有しています」

「実は二頭の竜の話はもっと前にも出てきたんだけど、略ね。
 ちなみにこの竜のやり取りでウーゼルが王になる事を予知されていたから、竜の頭『ペンドラゴン』って名乗るようになったのよ」
「へぇ……」

「魔法使いマーリンは以前にもドルイド(古代の神官)の形でいたんだけれど、ここでアーサー王物語の重要な位置を占めるようになるのよ。
 ヴォーティガーンに対するやりとりはそこから来ているわ。
 そんなわけでウーゼル初登場。と同時に実在した将軍アンブロシウス・アウレリアヌスはウーゼルの前の王となり、アーサーの叔父になったのよ」
「トマス・マロリー版でアンブロシウスが登場してこないのは?」
「アンブロシウスが死んだ後にコーンウォール公とのいざこざがあったからね」
「我が父ではありますが、人妻に恋をするとは……これではランスロットと同じではありませんか……」

「で、とうとうモードレッド初登場、マビノギオンの時点でメドラウトがアーサーと戦って終焉を迎える事は書かれてたけれど、詳細はこれが始めてよ。
 この作品ではまだオークニーのロト王とアンナ(モルゴース)の間にできた正式な子供だけれどね」
「そうだったんですか?」
「アンナだってウーゼルとイグレインの間に生まれた、れっきとしたアーサー王の実妹なんだから」
「何さその設定。今と全然違うじゃないか」
「まあ、後でまだ歪められるんだけどね。この国にある源氏物語みたいに完成形って言うのがないんだから」
「んー……」

「更にアヴァロン初登場。アーサー王はアヴァロンより戻ってくる事になったわ。
 アーサー王の物語とは別にマーリンの物語を書いた『マーリン伝』でモルガン初登場。湖の貴婦人としてアーサー王をアヴァロンへ連れて行くわね。
 もちろん悪女設定は一切なし!」
「し……信じられません。あの姉がですか?」
「そうよー。驚いた?」
「ええ」

「さて、じゃあもう一つのアーサー王物語の原典、『マビノギオン』の番よ。
 そもそもブリタニアの人たちはあまり記して伝える事をしないで、詩にして後世に伝える習慣があったのよね。
 だからタリエジンのような吟遊詩人が歌や詩を作ってその偉業を称え、後世に伝えていったのよ。
 それをマビノギオンでひとまとめにされたというわけ。ちなみにこれが現存する最古のアーサー王物語なのよね」
「現存する? 『ブリタニア列王史』は?」
「写本が残ってるだけで、『マビノギオン』には及ばないわ。それに話としても『マビノギオン』の方が古いしねー。
 これはウェールズ側から書かれたものだからキリスト教要素なし。アーサー王が王座に座って騎士たちが旅に出る、その原典がここにあるわ。
 そこで初めてアーサーの甥メドラウトがアーサーと戦った事になってるわよ」

「モードレッドですか……言葉では言い尽くせない存在でした。彼自身に罪はないのですが、姉が私に終焉をもたらす存在として送り出した事を思うと……」
「ジェフリーの時点ではアーサー王遠征中に国を任された事、グェネヴィアを略奪結婚しようとした事、カムランで相打ちに終わる事が定まってるわ。
 他に関しては後回しね」
「モードレッドか……どんな奴だったんだろうな」

「『マビノギオン』でようやく円卓の騎士の原典が続々と現れるわ。
 『マビノギオン』最大の特徴は騎士の誰もがそれぞれ神秘か特技を持っていた事にあるのよ。
 後にランスロットやその他一部の騎士たちのかませ犬になっていった騎士たちもちゃーんと活躍するんだから。
 ケイしかり、ガウェインしかり、ベディヴィエールしかりね。シロウが読んでるのは『マビノギオン』辺りでしょ?」
「まあそうだな。とりあえず日本語訳されてるのから始めてみたから」

「『マビノギオン』は語り伝えられたものを寄せ集めて構成されているから、そこで登場した騎士たちは実在の人物もいるのよ。
 オウァインは六世紀に活躍したとしてタリエシンの詩に出てくるし、パーシヴァルことペレドゥルは六世紀のカトライスの戦いで戦死した人物としてあるわ。
 カイとベドウィルはアルスルと関わらずに三題歌や古詩に再三登場する事もあって、ルーツはある意味アルスルより深いかもしれない。
 逆に成立年数がやや新しいカムリやアルスル宮廷の話になるとマダウクのようにかなり後に登場する実在の人物もいるわね。
 ざっと円卓の騎士たちの構図はこんな感じね」

・史実
アンブロシウス・アウレリアヌス(アウレリウス・アンブロシウス)、ギルダス、ヴォーティガーン、アルトリウス(アーサー)、タリエシン。

・基本ウェールズ(マビノギオン・名前はウェールズ語)
アルスル(アーサー)、カイ(ケイ)、ベドウィル(ベディヴィア、ベディヴィエール)、キルッフ、ゲライント(エーレク)、グワルッフマイ(ガウェイン)、 ペレドゥル(ペルスヴァル、パルジーヴァル、パーシヴァル)、オウァイン(イーヴェイン、イヴァン)、グウェンホヴァル(グェネヴィア)、メドラウト(モードレッド)。

・基本ウェールズ(ブリタニア列王史・名前はラテン語)
アルトリウス(アーサー)、メルリヌス(ミルズィン、マーリン)、ウーテル(ウーゼル)、インゲンナ(イグレーヌ、イグレイン)、ロト王、 アンナ(モルゴース)、モドロン(モルガン・ル・フェ)。

・基本ドイツフランス共通
イーヴァイン、パルヂヴァール、トリスタン(トリストラム)、イズー(イゾルデ)。

・基本ドイツ
エーレク、ガウェイン近辺の騎士たち。

・基本フランス
ランスロ(ランスロット)、ギャラハッド、サグラモール、湖の貴婦人(ニムエ)。

・基本英国(アーサー王の死以前)
アーサー、ガウェイン、緑の騎士、マーリン。他上の翻訳。

・アーサー王の死
エクトール、ランスロット近辺の騎士たち。ほぼ現在の形で総出演。

「有名どころはこんなものかしら」
「じゃあ『ブリタニア列王史』と『マビノギオン』がベースになってアーサー王物語は作られていくんだな」
「最終的には1470年の『アーサー王と高貴な円卓の騎士の本』(日本では『アーサー王の死』で有名)で一つの完成系になったのよ。
 じゃあ次は様々な由来について由来を確かめてみましょうかしら」


様々な由来

「まずは聖杯。これはケルト神話でダグダが使っていた魔法の大釜が原典ね。決して始めからキリスト教の聖遺物、聖杯じゃあないわ」
「確かケルトの伝承に魔法の大釜は付き物だよな。アーサー王物語でも『マビノギオン』で出てくるぐらいだし」
「それが聖杯に結びついていったのはアーサー王物語がキリスト教圏の騎士道物語になってからね。フランスで発展した形態よ。
 魔法の大釜が聖杯として解釈されるようになって変化していったのよ」
「聖杯、か……」

「次に湖の貴婦人だけど……実はニムエはいなかったのよ。  はい、ここで問題。モルガンの原典はなんだと思う?」
「アイルランド・ケルトの三神の一人モリガンではないのですか?」
「ぶー。実は違うのよねーこれが。もしかしたらそうかもしれないけれど、実はもっと有力な説があるのよ」
「違うのですか?」

「元々はケルトの河の女神、マトローナからモドロンへとなった存在なの。りんごの小島、つまりアヴァロン島と最も関係してるのよ。
 ジェフリー・オブ・モンマスが『ブリタニア列王史』の後に書いた『マーリン伝』で、モルガンはアヴァロン等に住む神秘の9人姉妹の長になってるわね。
 メドラウトによって瀕死の重症を負ったアーサーを、傷を癒すためにアヴァロン島へと連れて行く……とはさっき説明したかしら。
 なのでモルガンは神秘的な存在ではあるけれど、決して魔女なんかじゃなかったんだから。
 その姿が歪められていくのはやっぱりフランスなのよね……。キリスト教の騎士道精神あふれる話になる度に古い神秘的存在は歪められていったのよ。
 そうしてコーンウォール公とイグレインの娘になってアーサーと敵対する存在になるわけね」
「――……」
「マーリン発狂で木に閉じ込められるのは『マーリン伝』からだっけ?」
「そうね。モルガンが歪められていく事でモルガンから分かれた存在がニムエなわけよ。
 湖の貴婦人自体はモルガン以外にもいたけれど、ニムエが初登場したのはやはりフランスからで、ランスロットの育ての親になっているわね。
 その時はまだマーリンの弟子設定はなし。それはまだモルガンの設定だったから」

「それにサー・トマス・マロリーが『ニムエ』に元々ブリタニアにあった『湖の貴婦人』を付加させて完成、ってわけか?
 なんだかなぁ……」
「モルガンもついでに聖鞘を捨てるとかエピソードが追加されてすっかり悪役。セイバーの良く知った存在になったわけよ」
「……すみませんが何とも言えません」

「次にモルゴース。アーサー王と敵対する関係になっちゃったモードレッドの母親アンナが原典だけど、『ブリタニア列王史』ではアーサー実の兄妹。
 更にモードレッドはガウェインとも実の兄弟って関係だったから、アーサーの甥だったわけよ。
 それが変化したのはやっぱりフランス。モルガンが歪められたと同時にアンナはモルゴースになって、モルゴースは異母兄妹になってしまったのね。
 もちろんアンナには魔法使いやドルイドの類の兆候は一切ないんだから」
「ん? モードレッドがアーサーの息子になったのはいつなんだ?」
「それより過去にもあったけれど、一番有名なのはトマス・マロリーの『アーサー王と高貴な円卓の騎士の本』での事よ。
 アーサー王物語の歴史からすればまだ浅い年代の事ね。びっくりした?」
「んー、なんか微妙……」

「次にエクスカリバー、これに関しては詳しいサイト『幻想の武器博物館』見つけたから。 後でコピーして渡すわね。
 これ関係の考案は結構行われてるから資料も探しやすいしね」
「王の選定要素は確かにグラムから来てるかもしれないけれど、あれって単刀直入に言えば螺旋剣・カラドボルグからだろ?」
「え? シロウ、それは一体どういう事ですか?」

「エクスカリバーの出発点は『マビノギオン』のカレドヴルフ……で合ってるよな?」
「ええ、合ってるわ」
「『マビノギオン』はケルトを色濃く受け継いでる物語だ。スペルから考えてフェルグスの使ったカラドボルグから名前を持ってきた可能性が高い」
「私の剣にそんな由来が……」

「だからアーチャーはカラドボルグを使ってたのかもねー」
「「!?」」


現代のアーサー王と最後に

「さて、最後にトマス・マロリーの『アーサー王と高貴な円卓の騎士の本』だけれど……」
「それって何さ。俺聞いた事ないぞ」
「日本では『アーサー王の死』で有名よ。出版された時はそういう題名だったけれど、トマス・マロリーの原題はこっちよ。
 カムラン付近だけじゃなくてアーサー王物語全てを取り扱っているから、徐々に題名が見直されてきてるのよ」
「あ、それなら俺もわかる。説明させてくれ」
「ん、いいわよ。早く早く♪」

「じゃあ……。まずこの時に諸説あったエクスカリバーが一つにまとめられて、カリバーンとエクスカリバーに分かれるんだよな。
 これについてはイリヤが説明してくれた通りだ。剣を湖に入れる風習はナルトのバトラズにも見られた当時の風習みたいだからそのまま残ったな」
「ここで問題になってくるのは鞘がいつ宝具みたいな扱いになったかって事だけれど……実はわりと最近の話みたいね。
 あいにくだけど私は『アーサー王と高貴な円卓の騎士の本』より前で確認できなかったわ。
 アーサーが『ブリタニア列王史』以降表舞台に出てくる話はあまりないから特定は簡単なんだけどねー。
 『アーサーとマーリン』はまだ読んでないから分からないけれど、トマス・マロリー以前に書かれていた『アーサー王の死』には一切書かれてないわ。
 多分『アーサー王と高貴な円卓の騎士の本』が最初ね」
「そんなにアヴァロンって新しいのか……」
「し……知りませんでした」

「つ……次。ランスロットやトリスタンらの騎士道物語、それからパーシヴァルとギャラハッドの聖杯探求がローマ遠征の後に入ったせいで、
 モードレッドの裏切るタイミングがずれたんだよな」
「つじつま合わせのためにランスロットの浮気を暴いて、遠征に言っている間に反乱を起こしたってわけね。
 あ、そうそう。ランスロットはブルターニュの王なんだから、ブリタニアの王であるアーサーに『反逆』したって言葉はおかしいわね。
 臣下の礼をとっていてもあくまで『同盟』なんだから、国対国の戦争だったって考えた方がよさそうね。
 ……その原因が人妻な辺り、何かを連想させるんだけどね」
「う……っ」

「あとイリヤ。モードレッドがアーサー不義の息子になったのと、
 聖杯探求の話がパーシヴァルからギャラハッドに移ったのがいつなのか分からないんだけど……」
「モードレッドの設定はアーサー王物語が英国に帰った後よ。1400年代だからトマス・マロリーと大した違いはないわ。
 ギャラハッドの設定はフランスからね。ランスロット同様元からいた円卓の騎士から活躍を奪った形になってるわ。
 1185年頃のクレティアン・ド・トロワの時点ではまだペルスヴァル(パーシヴァル)だったっけ。
 よっぽどブルターニュ、要はフランスの人に活躍させたかったのね」
「フランスはローランの歌があるんだから十分な気もするんだけどな……」

「追加しとくと、英国に戻ってきた頃にはサクソン人と戦った形跡は一欠けらもないわね。
 サクソン人を打ち破ったウェールズの英雄アルトリウスはいつしか敵だったサクソン人を始めとした多くの人にとっての英雄アーサーになったのよ。
 私からいうのはこれくらいなんだけど、シロウもっといっぱい言いたい事ある?」
「ない、……な。まだ調べ始めたばっかだからイリヤみたいに詳しくないし……」
「私だって真名判断のために学んだ知識だからおざなりよ。掘り進めればもっと発見があるかもしれないわよ」
「ん、分かった」

「さて、とりあえずこれでおしまいね。なんか質問ある?」
「いえ、とても丁寧な説明でした」
「あと分からない所は自分で調べてみるよ」
「そうね。人に聞くのも手だけれど自分で調べてみるのが楽しいかもしれないわね」

「となればシロウ、そこの本を何冊か貸していただけますか?」
「これってライダーのだけど……セイバーにならいいか。ほら」
「ありがとうございます」
「それじゃあ私はのんびりさせてもら――」

「おや、セイバーに士郎、それからイリヤもこんな所にいましたか」
「あ、ライダー。ちょうど良かった。さっきライダーに借りた本、セイバーに貸してるから」
「それはちょうどいい。ついさっきようやくこれが届きました」
「ん……? これって……」

「つい最近になってようやく出た『ブリタニア列王史』の日本語訳です。よろしければ士郎から先に読みますか?」
「い、いや。ライダーが買った本なんだからライダーから読んでくれ」
「いえ、私はイリヤに話がありますので、ごゆっくり」
「……分かった。ありがとうな、ライダー。後で必ず何かお返しするからさ」
「その笑顔で私には十分ですよ、士郎」

「――で、ライダー。話って何かしら?」
「いえ、士郎とセイバーを二人きりにさせておくべきかと空気を読んでみただけです」
「……まあ、今はしょうがないわね。でもライダーってその場の雰囲気は崩さないのね。あまり積極的じゃないとは思ってたけれど」
「さあ、何の事でしょうか? 裏では何かしているかもしれませんよ」
「ふふっ」

「あとイリヤ。サクラが帰ってきてからでかまいませんが……」
「ん? どうかしたの?」

「後で私についての諸説も話してくれますか?」
「……そうね。分かったわ」




戻る



 参考文献
・『ブリタニア列王史』:ジェフリー・オブ・モンマス 訳:瀬谷幸男 出版社:鞄雲堂フェニックス 2007年
・『マビノギオン』:(シャーロット・ゲストのではない) 訳:中野節子 出版社:JULA出版局 2000年
・『アーサー王と高貴な円卓の騎士の本』:サー・トマス・マロリー 訳:井村君江 出版社:筑摩書房 2004〜7年 全五冊
・『闇の女王に捧げる歌』『落日の剣』『アーサー王と円卓の騎士』:ローズマリ・サトクリフ 出版社:原書房他 2000〜2年 全六冊
・『エクスカリバー最後の閃光』:バーナード・コーンウェル 訳:木原悦子 出版社:原書房 1997〜8年 全六冊 現在絶版

 参考サイト
・英語版wikipedia(日本語版よりはるかに役に立ちました)
幻想の武器博物館

 本当に簡略で済ますつもりがこんなえらい事になってしまった……。
けれども自分の中では本当にさわりのつもりです。文献を紐解けばきっともっと詳しい資料が必ず見つかると思います。
さて、ではセイバーのルーツに関してですが、

エクスカリバー&アヴァロン:『アーサー王の死』
モルガン&モードレッド:『アーサー王の死』
異民族との戦争:『ブリトン人の歴史』
ローマ遠征など:『ブリタニア列王史』
赤い竜など:『ブリタニア列王史』

……カオス。そもそもセイバーのアーサー王物語では今のところランスロットたちが出てきてませんし、うーん。
最後になりますが、セイバー関連の何かを書く際にこれがほんの少しでも力になれれば幸いです。

  2007年11月19日
  2008年1月28日 ベドウィルとカイなどの記述を追加。


2style.net