Fate/the midnight saga(仮)

第33話


   /9日目

「……この辺ならもう誰にも聞かれないと思うけど、どう思う?」
「その何気ない気配りだけでもわたしには嬉しいですよ」
橋からは100メートルは離れたか。
もはや夕方なのもあってこの辺の人通りは本当に少ない。
川辺なので遮蔽物も一切なく、万一クリスや双魔、それにマキリのサーヴァントが襲ってこようとアーチャーの攻撃で撃退できるはずだ。

それに橋からもまだ見える位置にあるからおいそれと仕掛けてくるとも思えない。
ならば葵の安全は大丈夫のはずだ。

「……」
「……」
俺からは何も言わない。ただ黙って葵が俺に言ってくれるのを待つばかりだ。
だけどその葵はうつむいたままで何も言おうとしない。

だけどここで焦らせたらそれこそ葵が決心してまで言おうとしている事をないがしろにしている事になる。
ここは時間が経とうと深夜になろうと、このままでいるべきだと俺は思う。
俺の出る幕はない。あとは葵の決意次第だ。

「憐さんは……英さんをどう思います?」
「え?」
英ねえの事?
この言葉に思わず拍子抜けする。
葵に関する事だと思ったけれど、その実英ねえの事だったなんて。

「……素晴らしい人だと思う。あまりに高い存在だと思ったら身近な存在な気もする。厳しくもありやさしくもある。
 俺はあの人の事を本当に尊敬している」
そう、俺は英ねえの事を尊敬している。

もう彼女は俺よりも年下のように見えてしまうけれど、それでも俺はあの人を立派な人だと。
その姿、その剣、その心。全てにおいて俺はあの人にあこがれているし、ある意味惚れている。
そう、多分それは俺の家族以上に。先生と同じぐらいに。

あの人に会えた事は俺にとってはかけがえのない経験だろう。

「わたしも……英さんはとても大切な人なんです。幼い時に母を亡くしてしまったわたしにとってあの人は母親と同じ存在なんです」
ああ、それは聞いた事がある。

葵は幼い時に母を失い、つい数年前に父も失ってしまったと。
祖父が生きていたから彼に育てられる事になったと。
英ねえが葵を我が娘のように大切だと思っていると。

「わたしは英さんたちも含めたら5人家族なんです。でも家族としてのつながりはあまりに細くて……」
5人? 両親をなくしているのにか?
あ、そうか。祖父と英ねえを含めたら確かにそうなるかもしれない。
残り2人がどんな人かは俺は知らないけれど。

「でも……今わたしは百目木の家に厄介になってますよね。家族と呼べるものが一応あるのにもかかわらず」
黙って俺はうなづく。
うつむいたまま葵の独白は続く。

「わたし、ずるい女なんです。一成さんにも沙耶さんにも、憐さんにすらわたしの本当の家族の事をお話しないでそのまますごしていて。
 黙っていたらずっとそれが明かされないだろうって思って。ずっとずっと隠してきたんです」
「……人には誰だって言えない事がある。葵にとっては本当の家族がそれだったんだろ? なら……」
問い詰めるつもりは一成さんにも姐さんにもないはずだ。
いや、むしろ問い詰めていたら俺はあの人たちを見損なうだろう。

「わたしはそんな皆さんの親切を利用していた酷い女なんです!」

葵の大声に思わずそう言おうと思っていた俺の言葉が止まる。
ひどく驚いてしまったのが態度に出たせいか、葵が目を見開いてまたうつむく。

「わたしが百目木の屋敷に出入りするようになったのは沙耶さんがたの親切でもわたしが屋敷にいたかったからじゃなかったんです。
 目的は一成さんと憐さんを見張る事にあったんですよ」
「え?」

「皆さんはわたしの事を大和撫子だとか純粋だとか可憐だとか言いますけれど、わたしほど汚れきった女なんてこの国にはいないでしょうね。
 身は幼少の頃から嬲られ、この体はもういやらしい存在なんです」
「葵……?」

「それにわたしはある人が別の事を考えると嫉妬にかられる卑しい人間なんです。他の人がどう思おうとわたしの心には全く響かない。
 そのためならどんな汚い手も使うし、自分の手だって真っ赤に汚せる。そんな真っ黒に淀んでいるんです」
次々と発せられる葵の言葉。
その一つ一つが既に衝撃的で、目の前が真っ白になりそうだった。

「そしてついおとといですか。ついにわたしは家族まで謀っちゃいましたよ。誰もかもを騙して、自分を偽って、全てをひた隠しにする。
 それが間桐葵という存在なんです」

「葵……」
なんて悲しい顔をするんだ。
その独白のなかで今にも泣きそうなほどに悲痛な、見ている俺の方が泣きたくなってくるまでの。

「どうですか? これがわたしなんです。幻滅なさりましたか?」

うつむいていた顔を上げて微笑みを浮かべる葵。
でもその顔は悲しいままで、夕日に照らされることでそれに拍車をかける。

葵の告白はめまいがするほど衝撃的なものだ。
葵がそんな内面を持っていて百目木の家にいた事も信じられなかったし、それが本当に葵なのかも信じられなかった。
でもそれが現実。俺が単純に間抜けにもほどがあるほどの目で彼女を見ていただけだ。

「……葵」
でも、これを告白する事で全てが変わるかもしれない。そんな可能性を思っていても彼女は俺に真実を打ち明けてくれた。
そして日々の日常。町の人に、屋敷の人たちに、そして俺に笑いかけてくれた葵に嘘偽りは全くなかった。
葵の言っている事が真実であっても、普段一緒にすごしてきた葵だって葵なんだから。

「俺はそれが葵でも葵に対する接し方がこれ以上悪くなる事はないし、冷たい目で見ることはない」

だから俺は正直な気持ちを葵に伝えた。
どんな過去を負っていても、どんな思いを持っていても、葵は葵なんだから俺は葵を信じる。
ただそれだけだ。

「自分に負い目があるなら俺たちが少しずつ背負っていく。こんな事言うのは無責任かもしれないけれど、俺だって姐さんだって師範だって」
「……やっぱり憐さんはそうおっしゃるんですね」
「ああ。もちろんだ」
葵の言葉は衝撃的だけど、それで葵に対する見方が変わるはずがない。
むしろ葵が自分の事を話してくれたおかげでより親しい関係になる事だってできるはずだ。

この事実で態度を変える奴は葵を大切に思ってない証拠だ。
そんな人がこの町にいるはずがない。
ましてや一成さんや姐さんが。

「偽善ですよ。貴方にわたしの事が許せるはずが……」
「偽善でもいい。俺はただいつも俺たちとすごしてる葵だって本当の葵だったって言いたいだけなんだ」
その言葉に葵の顔色が変わる。

「俺たちと過ごしてきた日常は葵にとってもかけがえのないひと時だったんじゃないのか? 時には言い争いもするし、時には喧嘩もする。
 でもその世界は温かいものだろ?」
「憐さん……」

「ならそれでいいじゃないか。葵がどんな過去を負ってきたからって、百目木はそれで葵を拒むようなふざけたところじゃないんだから」
「……」
俺の言葉に葵はうつむいたままだ。
それ以上の言葉を発しようとしない。

そう、姐さんだって一成さんだって、話せばきっと分かってくれるはずだ。
一成さんは元より姐さんは俺よりもはるかに人間が出来ているから、逆に葵にそんなふうに思わせた家族をどうかするかもしれない。
英ねえだって葵の事は大切に……。

……待てよ。
なら何で俺だけに話す必要があったんだ?
俺を一番信頼しているからか、もしかして俺を慕っているからとかか?

それとも、俺にしか話せない事があるからか?

「いえ、憐さん。わたしの事は誰にも背負えない」

葵はそんな俺の考えをよそに俺の言葉を完全に否定した。
あまりにもあっさりと言い放ったので目が丸くなる。

「沙耶さんや一成さんにもわたしは。英さんはわたしを我が娘のように大切にしてくださりますけれど、
 普通とは少し違った考えをお持ちなようでして結局は……」
「英ねえが!? そんな馬鹿な!」
思わず怒鳴ってしまう。
あの英ねえがそんな事をするはずがない。

というより葵の告白から妙にひっかかると思ってたらそれだったのか!
俺より葵と親しい関係にいるはずの英ねえがなんで葵がこんな思いをしている事に気づかなかったのか。
いや、あの直感が鋭い英ねえがその葵に気づかないはずがない。鈍すぎる俺とは比べ物にならないはずだ。

なら、英ねえは、知っていながら放置したのか?

ふざけるな。
葵がこんなにも悲痛で悲しい顔をしていたって言うのに。
こんなにも決意を込めないと話せない思いをしていたのに。
それを今まで黙って1人だけで思いながら日常をすごしていたって言うのに。

「なら俺が―――!」

と、俺の言葉はそこで止まってしまった。

思ってしまった。その言葉がとてつもなく重要な意味を持っていることに。
思い出してしまった。それを俺が言う資格なんてないことに。
そう、俺と葵とは決定的な違いがあるんだった。

魔術師であるか否か。

俺が葵の全てを背負う事になるなら俺は一生をかけてでも葵を癒す存在にならないといけない。
だけど、そうなってしまうと葵は否応なしにこちらの世界、つまり魔術師側の人間になってしまうって事だ。
魔術師と運命を共にする。それがどれほどつらい事になるだろうか?

魔術師の家族として真っ先に思い出すのは俺の実家、遠坂の家。
今までのような生活は望めまい。もし子が2人以上になれば、俺のような思いをする事になるだろう。
養子先次第では更に過酷な運命を迎えるかもしれない。
魔術師としての俺では彼女の苦悩を受け持つ事が出来ても、俺が与える苦悩がまた彼女を……。

なら俺が魔術師を辞めるべきか?
この10年で培った価値観を全て捨てて10年前と同じようにすごせと?

祖母の、遠坂の一族の、先生の、英ねえの、学友の思いを全て捨て去って?

今までの俺か、葵か。
単純にするとこの二択か。
俺はどちらを選ぶ?

選ぶべきかとか選らばなくてはならないかとかそんなのは関係ない。
大切なのは俺があろうとする意思だ。

幸いにも俺には継ぐべき家系はないし研究もない。
継いだのは先生たちが持っている想いだけだ。
葵を背負うと言う事はその想いを捨てる事。

俺は……。

「憐さん、わたしの全てを受け入れてくれるんですか?」

葵の言葉が脳裏に響く。

先生方の想いか、葵か。
今後の全てを決めるだろうこの二択。
それを今の俺が決められるのか?

多分これは相談も出来ない事で、悩んでも結局答えは同じなんだろう。
この場で決めても先延ばしにしても結局は変わらない。

でも、多分これはいつかは決めなきゃいけない事だったんだろう。
聖杯戦争が終わったら日常を捨てるかそのままになるかを決めなくちゃいけなかったんだから。
それがたまたま今日この場で出てきただけの話。何らおかしい事はない。

じゃあ一体……俺はどうすればいいんだよ!

一成さんや姐さん、葵や英ねえ、その他この町の人たちと共に過ごす日常。
それは確かに平穏で温かい人生になるだろう。
魔術師として先生や遠坂に教わった学問、英ねえに教わった剣で向こうで過ごす日常。
過酷なものになるだろうけど、想いは受け止められる。

どっちも選べる日常は絶対に存在しない。
なら俺は……俺は……!


「レン……」


その時、俺の頭をある声がかすめた。

思い出すのはその姿。
俺は彼女に手を差し伸べると言い、彼女はその言葉に泣いてくれた。
剣士の英雄に立ち向かっていった時、彼女はそれでも俺には生きてくれと言った。

ディートリッヒ、か……。

その感情の起伏はとても大きく、激しい、そんな彼女。
子供のようでありその実大人のようでもある、そんな彼女。
笑顔がとても明るく、まぶしいほどの彼女。

俺は彼女にいつまでも笑顔を見せてほしいと思う。
どんなに悲しい事があって、心が引き裂かれる思いをしても、最後には心から笑っていてほしい。
彼女にはそう思わせる何かがあった。

だから本来双魔との決着をつけるための聖杯戦争はディートを救うためのものになった。
そのために俺は幾度となく戦った。
そして、これからも……。

ああ、そうか。
こんなにも簡単な事だったのか……。

「葵」
つまり俺はそんなふうにディートを思うほどに狂ってしまったわけか。


よくは分からない。よくは分からないけど、多分これはいえる。

俺はディートリッヒにずっと笑顔でいてほしいって。

一目見たあの瞬間から、ずっと。


「見てほしいものがある」
「え?」
ならば俺が真実を告げるべきだろう。
俺がこれから進む道を葵に示す事で俺の意志が伝わってくれる事を願って。

俺は無言で自分の右、つまり川岸の方を指差す。
そこには今のところは何もない。穏やかに水が流れているだけだ。

本来なら決してやってはいけない禁止事項。
ばれれば俺どころか葵にすら危害が出るかもしれないとんでもない事。
でも俺はやらずにはいられなかった。

「真実は決して見えはせず」

橋からはこれから行う事が見えないように結界を張る。
そう、俺がこれからする事は……、

「紹介するよ」
暴露だ。


「俺のサーヴァント、アーチャーだ」


「え……あ、ちゃー……?」
俺の右に姿を現したのはさっきまで俺たちを見張っていた俺のパートナーであるアーチャー。
葵に全てを打ち明ける胸をアーチャーに伝え、こうして左で現界してもらった。
彼は莫迦な事をと思うかもしれないけれど、俺にとっては重要な意味を持っている。

「今のを見て分かるように俺は普通じゃない事ができる『魔術師』って呼ばれる存在なんだ。
 神秘を用いてある点に辿り着くために行動する集団で、そのためならどんな手も使って成し遂げようとする存在だ」
困惑している葵をよそに俺は説明を続行させる。

「今この町では俺の兄や妹も含めてその『手段』を得るために戦争をしている途中なんだ。もう既に何人もがそれに犠牲になってる」
「憐……さん?」

「俺の親戚だって言って連れてきた士郎は俺に協力してくれてる人物で、俺なんかよりはるかに強い。でも他の連中も強い人物を連れてる。
 もしかしたらその『手段』を得るために俺が今度死ぬかもしれない」
「死ぬって……!」

「でも俺はある人をどうしても救いたい。そのためにもどうしてもその『手段』が必要なんだ」
そう、俺はどうしてもディートを救いたい。
そのためにもこの聖杯戦争をどうしても勝ち残りたい。

でも残った敵はクリスや双魔、それからマキリの者たち。勝てる保証はどこにもない。
つまり、俺が完全敗北を迎えて殺される事だってありえるんだ。
そんな時俺が葵を受け止めてみせるって約束してたらどうなるだろうか?

聖杯戦争に関わって死ねば事故死にもならない。あるのは行方不明という言葉だけ。
葵はその時帰ってこない俺をただ待ち続けなきゃいけないのか?
絶対にない可能性だけを待ってただひたすらに。

そんな事が許されてたまるか。
いつ死ぬかも分からない俺を支えにするだなんて俺にはできない。
葵の支えになる価値なんて俺には全くない。

それは聖杯戦争に限った話じゃない。
魔術師の道を選んで聖杯を使ってしまった以上、もう戻ることはできない。
魔術師としての道を葵にまで歩ませたくはない。
葵にはそれ以上の幸せを得る事だってできるはずなんだから。

「すまない。その約束をして俺が死んだら身もふたもない。俺の命はすぐ先にはなくなってるかもしれないんだ。
 魔術師としての人生を葵には歩ませたくはないんだ。だから……すまないが……」
俺は葵を支える事はできない。
葵にはもっと平和な日常を過ごしてほしいから。

自分でも認める。俺は葵ではなくてディートを選んだって。
だけどこの思いに嘘偽りはないんだ。
この思いを偽ってまで葵を支える事なんて俺にはできない。葵に対してもそれは失礼だろう。
だから俺は……、

「その事でしたら別に何ら問題ありませんよ、憐さん」

だと言うのに、
葵はいとも簡単に、
そんな事を言ってくれました。

「へ?」
思わず間の抜けた声を俺は発してしまう。
確かに魔術師云々の話は分かりにくかったかもしれないけれど、このことが何ら問題ないって断言されたらそうもなる。

「問題ないって……もし俺が葵を娶ったとしたらその子供が不幸になるかもしれないんだぞ。俺はそんな事にはなってほしくは……」
「いえ、そうじゃなくてですね……」
俺の主張をよそに葵は左側に手を向けた。
まるで誰かを紹介するように。

当然そこには誰もいない。
一見するとただのしぐさに見えなくはないけれど、葵の動きはその体勢で明らかに止まっている。
これは一体……?

「こちらもご紹介しますね」
そしてその人物は現れた。


「わたしのサーヴァント、前回のセイバーです」


現れた、と言う表現は正に正しい。
やって来たのではなくてその場で現界したのだから。

そう、俺がこいつを見間違うはずがない。
何しろ俺たちは柳洞寺でこいつと殺し合ったんだから。

「前……セイバー……!」
わけが分からない。頭がこんがらがる。

前セイバーはマキリのサーヴァントだったはず。
それが何で葵にしたがっている? それを何で葵はわたしのサーヴァントだと言い放つ?
なぜそうも当然のようにしているんだ?

「目的は一成さんと憐さんを見張る事にあったんですよ」
葵は独白の中でこう言ってくれた。
なぜ百目木の屋敷の中でも俺と師範を見張る必要があったのか?

それは聖杯戦争の関係者だからじゃないか?

俺が魔術師で師範が協力者だから。
でも師範が協力者だとはアインツベルンすら知らなかった。知っていたのは多分遠坂とマキリだけ。
部外者ではまずありえない。

なら、自ずと答えは決まってくるじゃないか。
例えその可能性を信じたくなくても、ありえて他の選択肢がないのなら。

「分かっていただけたでしょうか」
笑みも何もない。だけどその表情に悲しさはない。
葵はただ決意だけを表して言葉にした。


「わたしはマキリの魔術師です」



   /

 マキリ、遠坂とアインツベルンと共に聖杯戦争の基盤を創りあげた家系。
普通その家系の魔術がどんなものであるか詳しく知る事はできない。
けれど俺たちは双魔たちが攻め落としたマキリ邸でその資料を見つけていた。

どうやって後継者を育てるか。どうやって使い魔たる蟲を繁殖させていくか。
それが克明に書かれていたあれを。

葵はそのマキリの魔術師だと言った。
なら葵が告白してくれた事はみんなマキリの魔術師であったがためにされた出来事――!

「ですからもう既にわたしは引き返せませんし、沙耶さんたちにわたしを支えてもらう事ができないんです。分かりますよね?」
「あ、ああ……」
あまりに衝撃的だったので返事がうまく出来ない。

葵がマキリの魔術師だったという事はあれに書かれていた事を味わったという事。
それなのに俺はそんな葵に全く気づかずに一側面だけしか見ていなかった事になる。
それは俺が不甲斐無いせいであって葵には全く非がない。

くそっ! 何で今までそんな事にも気づかなかったんだ!
確かに葵からは魔力が感じられなくて見た雰囲気も魔術師らしくなかったから勝手にそう判断してしまったけれど……。
でもそれは結局俺に見る目がなかっただけの話だ。

……いや、でも俺はそれをもし知ったとして手を出せたのか?
いくらそれが事実でも葵がマキリの後継者である事実に変わりはない。
だというのに俺はその葵の領域に入り込むことが出来るのか?
魔術師は他者からの接触を酷く嫌う性質があって、あのじいさんも例外じゃないはずだ。

「葵……マキリの魔術師なんだよな」
「もはやマキリと呼ぶより間桐と呼んだ方がいいと思うんですけどね。もう元のから遠くはなれちゃってるみたいなんで」
む、確かに蟲を操る魔術にしてもあれだけ気持ち悪いものじゃなかったはずだな。
なら元の魔術はそれとは全く異なる……って違う。

「自分が間桐の魔術師である事をどう思ってるんだ……?」

俺が一番聞きたいのはそこだった。
その言葉を聞いて葵は笑みを俺に見せる。

「どんなつらい思いをしていても、わたしはおじいさまの理想を素晴らしいと思いますし、マキリの魔術師である事を誇りに思います」

ゾウケンの理想を素晴らしいと感じて、マキリの魔術師である事を誇る、か……。
そうか……葵はそう思っていたのか……。

なら、葵は自分の意思でマキリの魔術師としてゾウケンに加担した事になる。
つまり、柳洞寺に攻め込んで僧侶を殺し、遠坂邸に攻め込んでレイリーを殺した。
葵がどんな思いをしたかは分からないけれど、それを実行したものの1人と言う事に……。

「何を勘違いしているか見当つくから言っておくが、臓硯が今抱いている悲願とゾォルケンの理想とでは若干の違いがあるぞ」
「え?」
そんな俺の心を察したのか、きりだしたのは前セイバーだった。

相変わらず前セイバーの正体どころか外見すらどんなものか想像できない。
ただ1ついえるのはわりと小柄な方だと言う事ぐらいだ。
そして、その眼はどこまでも気高く自分を表している。

「ゾォルケン・マキリが間桐臓硯になってから……いや、聖女が逝ってしまってからか。少しずつ違和感を感じ始めたのは。
 私が召喚された時は彼の理想はアインツベルンの聖女と並んで尊かった。英雄となった私が矮小と思えるほどに、とても……」
でもその気高い眼がどこか悲しげに天を見据えている。
俺やアーチャー、マスターである葵すらその視界にはない。

あるのはただひたすらに尊い理想なのだろう。
俺なんかが決して及ばないほど高みにある……。
英雄すらも魅了されるその……。

「だがまあ過ぎた事を言っても仕方がない。とにかくアオイが言っているのはおまえが思っていることじゃないって事だ」
「む……っ」
確かに前セイバーの言っている事は事実だろう。

葵がマキリを間桐だと訂正した直後にマキリだと言っているんだから、今の間桐じゃなく昔のマキリである事に誇りを感じているんだろう。
そして臓硯が柳洞寺の人たちを犠牲にして成し遂げようとした事じゃなくて、かつて儀式を完成させた時の理想を素晴らしいと感じて。
……そこまで考えが及ばなかった俺が浅はかなだけだ。

でもこうやって前セイバーに指摘されるとなんかむかつく。
柳洞寺でのこいつの態度が気に入らないのかわからないけれど、とにかく言い方に腹が立った。

「確かにわたしはおじいさまと一緒になって柳洞寺の皆さんを殺しました。いくら言い訳をしてもその事実には変わりありません」
そんな葵はまるで俺の心を見透かしたように述べた。

「どんなに平穏な日常をおくりたくても同時にわたしは悲願のために動かなきゃいけないんです」
だってわたしはマキリの魔術師ですから、彼女はそう付け加える。

何、て事だ。
俺よりもよっぽど魔術師らしいじゃないか……。

「憐さん。これがわたしなんです。わたしの事は誰にも背負えないし、背負ってくれなんて言いません。全てはわたしの判断でやった事なんですから」
なおも葵は力強く言い放つ。
そこまでも毅然としていて、どこまでも悠然としていた。

「後悔はしていません。しているとしたら、そんな自分を偽っていた事だけです」
俺は葵の言葉を噛み締めるように聞いている。
その言葉の一つ一つが俺に突き刺さるようでいたい。

「ですから憐さん、わたしはもう自分を偽りません。隠しません」
葵は決意を込めた眼でこちらを見る。


「どうかそんなわたしを今日までのように接していただけないでしょうか?」


「……」
俺は返事ができなかった。
俺が考えすぎなせいか、てっきり一生を共に平穏に暮らしましょうと言うかと思ってたんだけど……。

マキリの魔術師、間桐葵、か。
葵の話からすると葵は祖父であるゾウケンと共に柳洞寺に攻め込み、かつ彼を裏切った事になる。
だとしたら瑪瑙を襲った前キャスターのマスターであるゾウケンとは袂を分けた事になるけれど……。

いや、普段の葵を信じろ。
あの葵はそれを率先してやるはずがないだろ。普段の葵から想像なんて出来るはずがない。
葵がたとえマキリの魔術師だとしても、俺たちと過ごした日常に嘘偽りなんてなかったんだから。

「いや、今日までみたいな関係には戻れないと思う」
「え……!?」
そう考えるともう早かった。
俺は俺の言いたいことを言う。

「だって……」
あー、言うのも恥ずかしくなってくる。
だけど言っちゃえ。


「もう俺たちに隠し事なんてないだろ。なら今までよりもいい関係になるんじゃないか?」


あー、言っちゃった。
前セイバーなんて目が点になっちゃってるよ。
アーチャーは俺の隣でとっても満足げな笑みを浮かべて腕を組んでる。

「あの葵、俺なんかおかしな事言ったか?」
これは不安だ。どうしようもなく不安だ。
とりあえず俺の思った事を言ったのはいいけれど本当におかしな事かもしれない。
町の連中が聞いたらはやしたてる事間違いなしなほどに。

現に葵はうつむいて何も言おうとしてないし……。

「あ、でも葵がそのままでいいって言うなら俺もできるだけ努力するから葵も……」
「違うんです!」
あせる言葉を葵は手でさえぎる。
そのまま葵は顔をあげた。


「とても……嬉しいんです」


その時の笑みをどう表現すればいいだろうか。

他の人から見れば和服美人が浮かべる絶世の笑みと表現するだろう。

だけど俺にとってはそんなくだらない比喩でごまかされるものではなかった。

いうなら、そこには全てがあった。

ディートとはまた違った世界がそこにはあるんだ。

どんな巨匠の画家にも、小説家にも、詩人にも表せない。そんな世界が……。

「憐さん?」
「え? あ、いや! 大丈夫だよ!」
自分でも何の事かさっぱりだけど、そう答えてしまう。
ってこのしぐさがおかしかったのか、葵どころか前セイバーまで笑うんですけど。

落ち着け俺。
ここで動揺してたら負けだと思う。
とにかく昂る心を落ち着かせて、深呼吸だ。

「じゃあ憐さん、帰りましょうか」
「あ、ああ。帰ろうか」
葵は俺に背を向けて歩み始める。
俺もそれにつられて歩み始めた。

既に夕暮れ。
さっきの世界を作るためにあったようなその橙色の空はもうじき夜になろうとしている。
夜、つまり俺たちの世界が始まろうとしている。

だけどまだ昼の世界は終わってはいない。
どんなことがあろうとも、日常を脅かす事はしたくない。
さあ、この日常を今は存分に楽しもうか。


「あっと、また忘れてました」
と、ここで葵はそんな事を言いながら振り向いてきました。
その急変には俺どころかアーチャーや前セイバーすら驚いたようだった。

「もう隠す必要は……ありませんよね?」
「……ないな」
葵は前セイバーの方に視線を向ける。
それに答えるように前セイバーはうなづく。

「憐さん、わたしにとってセイバーさんはどんな存在だと思います?」
「え?」
唐突なまでの質問。
思わず真剣に考え込んでしまう。

うーん、バーサーカーとそのマスターのような関係じゃないし、レイリーとライダーとも違う。
葵と前セイバーは聖杯戦争とか言う枠からは完全に飛び出した関係を築いている気がする。
多分、俺たちやディートたちよりも。
だとしたらパートナーどころか親友……。

いや、ちょっと待てよ。
前セイバーは前回召喚されたサーヴァントで、現界してから既に60年以上この地で過ごしている事になる。
つまり、前セイバーは葵が生まれる前から知っていてもおかしくないわけで……。

…………え?

「……ええ?」
待てよ待てよ待てよ。
そんな莫迦な事がありうるのか?
あ、いやでも確かにそう考えると疑問があっという間に氷解するけれど、それでも……。

「やれやれ、どうやら我が弟子はまだ未熟ですらないというわけか……」

そんな俺をよそに前セイバーはその衣に手をかけ、一気に脱ぎ去った。
そうしてあらわになる前セイバーの姿。

「太刀筋などの動作から判断してくれるかと思ったのだが、まあそれもまた一興」

前セイバーはその身を漆黒の甲冑が覆っていた。
全身鎧ではなくて普通の鎧で、鎧と小手と具足で出来ている。その鎧は肩まで覆われている。
その漆黒に輝きはなく、塗りつぶしたかのように鈍い。そしてそれを不気味なほど鮮明な朱が模様を作っている。
服は簡易的なドレスで、漆黒に純白の下地があった。
その装備に盾はなく、肩には剣がおさめられた鞘がかかっている。

その肌は白人よりも白く、その黄金の瞳も黄金の髪も惜しげもなく脱色されていた。
だと言うのにそこには混沌は存在せず、秩序が生まれている。
その容姿は中性的で俺よりも年下に見えてしまう。整っていて誰もが好印象を持つだろう。

そのたたずまいは正に気高く、美しい。
おそらくは名が高い騎士のような英雄だったのだろう。

だけど今の俺にとってはそんな事はどうでもよかった。
例えそこらで朽ち果てたその他大勢の中の1人だってかまわない。
ただ、俺にとってはその存在が……。

「やっぱりそうだったのか……」
「む、それではまるで気づいていたような口ぶりだが」
ぽつりとつぶやいた俺の言葉に前セイバーが反応を示す。
まあ……そこまで鈍感ではない。

「70を軽く超える年齢だっていうのに俺よりも年下の容姿、誰よりも勝っている剣技、何よりその在り方。
 そうじゃないかなとは思ったけれど……」
「確信はもてなかった、か。それで閉口するとはレンらしいといえばらしいが」
そうやってその人は意地の悪い笑みを浮かべてくる。

ああ、そうだったんだな。
俺はこんなにも昔から、こんな素晴らしい人に師事していたのか。
その恩恵と言うものを改めて感じた。


「サーヴァントセイバー。その60年以上素性を隠して生きてこられたんですか。英さん」

そう、俺の剣の師である英ねえ、彼女こそが前セイバーだった。


「……」
「……」
俺たちは何も言わない。
ただただ時が流れ、少しずつ太陽の光がなくなっていくのだけが実感できる。

聞こえる音は橋での人の流れと風だけだった。
前セイバー、いや、英ねえはたそがれるようにして遠くを見つめる。

「もはやワタシの正体を知っているのはマトウの者とカズナリだけになってしまったな。アーチャーもランサーも去ってしまった……。悲しいものだ」
「英ねえ……」
アーチャーもランサーも、次の機会を放棄してこの世界を去っていった。
聖杯が次にも現れる事は彼らも知っていたはずだけれども、それでもなお彼らは姿を消した。
無理にとどまらせたキャスターはともかく、セイバーである英ねえだけが残り、新たなる英雄たちを倒そうとしている。

……60年、か。
ひょっとしたら生前送った人生よりも長い年月をおいてまで達成しようとする悲願、英ねえにとってはそれはなんなんだろうか?
それとも悲願とは別な思いを持って残っているとか?

「だがなレン」
そんな想いとは裏腹に英ねえは俺の方を鋭い視線で見つめる。

「ワタシにはそうしてまで達成したい悲願があるんだ。独りよがりな想いかもしれないけれど、この想いは本物なのだから」
「……」
「障害が全てなくなった時、雌雄を決する事になるのはワタシたちかもしれない。その時は我が剣をもって全力で向かおう」
地面に鞘ごと剣を立てる英ねえ。
その言葉には一切の建て前はなく、決意と想いが込められていた。

これが剣の英雄、これが俺がずっとあこがれてきた人。
ただただ俺は彼女に圧倒されるばかりだった。
そのたたずまい、その言葉、その在り方に。

でもいつまでもそんな状態じゃいけない。
俺はこの人を追い続けているんだから、背中越しで笑われるようなことはしたくない。
だから俺はやはり決意を込めて言う事にした。

「ああ、その時は俺とアーチャーとで全力で答えるからな!」
そして俺は笑みを浮かべる。
絶対の自信を見せて。

英ねえの実力は未知数だ。
宝具でも使っているのか、今でもサーヴァントなのかすら分からないし、その外見からは全く判断がつかない。
英ねえの本来の剣が力と技術が主体なのは魔力放出の賜物であり、速度と技術の攻撃は二次的なもの。
その宝具はライダーを倒し、夜をも切り裂いた。そのあり方は一切不明だ。
何より、昨日のセイバーとの戦いでは互角の戦いをしていたって聞く。

そして、英ねえ自身に悲願があるなら、俺の願いと必ずぶつかる事になる。

途中までなら一緒に道を進むことが出来るかもしれないけれど、そうなる事は避けられそうにない。
その時はつらい顔なんかせずに、全力で答えるしかない。
これが俺の想いだ。

「まあ、その時答えるのはアーチャーであってレンではなさそうだがね」
「いや、それ言っちゃおしまいだろ」
英ねえの含み笑いに思わず拍子抜け。

普通の人間が英雄に勝てるはずないんだからさ。
それに自分と英ねえの実力の差は嫌と言うほど思い知らされてる。
もしそんな事になったらそうするしかない、か。

「それに……ワタシの推理が正しいならそんな事する必要はないのですがね」

「え?」

「いや、こっちの話だ」
しぐさで英ねえはごまかしつつ鞘を背中にかけた。
そして葵の方を見ると、黙ってうなづく。葵もまた英ねえの方を見て笑みを浮かべつつうなづいた。

「さ、帰りましょうか」
「そうだな」
色々と思いは複雑だけれども、とにかく今はそれを全部受け入れて吟味するしかない。
そんな事を考えつつ俺は歩み始めた。

「憐」
でもアーチャーに止められてまた歩みを止めてしまう。
今度は何だよ。

「結界どうするのさ」
「あ」


   /interlude

 岡場所、と呼ばれる場所がある。
いつの世であろうと男性の欲求がなくなる事はなく、それを目的とした女性の接待も飽く事無く続く。
権力の統制と保護、これによって遊女屋を一箇所に集められる。これが遊廓と呼ばれるものである。
が、当然の事ながら公許を受けた遊廓があるなら許可を受けていないそのようなものもでてくるわけで。
非公式ながら一箇所に私娼窟、それを総称して岡場所と言う。

「今日もまたお出かけになられるんですか?」
「さて……オレはこのまま動きたくはないのだが、相手が許してくれるかどうか……」
「もう、私以外をご指名なさったり、意地が悪うございます」
そこに1人、ある宿で部屋を専有する者がいた。
1人の女性から勺を貰いながら彼は障子を開けて月夜を眺めている。

「今日は一段と空が美しい。自然と酒もうまくなる」
「酒ばかりですか?」
「さあ? どうだろうか」
「もう……」
その者は笑みを浮かべながらただその時を楽しんでいた。
一時の楽しみとは言え、それを楽しまずにはいられなかったから。

「今宵も……私を呼んでくださって大変嬉しゅうございます」
「礼には及ばない。君にはオレも大分世話になっているからね」
「そんなことはございません。ですが……」
いつになったら夜中に出かけることがなくなるのですか、とは女性は言えなかった。

この者は一ヶ月ほど前にやってきた。
宿の主人が目もくらむほどの大金を見せつけ、1,2ヶ月ほど部屋を借りたいと言うものだった。
当然女性に払う金とは全く別に。

主人は当然のごとく二つ返事で了承した。
そうして前代未聞、宿を仮住まいとする事となったのだった。

さて、だが昼間はともかく本業たる夜中の時間にまでその者は出かけるようになった。
昨日は出かけなかったが一昨日は出かけた。と言う判断しかねる行動を示していた。
それでも女性には金を払っていたあたり律儀と言うか馬鹿というか。

「そんな顔をしないでくれ。君にはその表情は似合わない」
「あ……」
「君の言いたいことは分かる。だけどオレにはやらなきゃならない事があるんだ。分かってくれるね」
「ええ……」
分かっている。この宿の一室を借りたのは専有したいからではなく、その夜中に出歩く事にあると。
商売での間柄だったはずだが、女性はこの者に好感を抱いていた。
そして、なんとなくだが分かってしまう。

彼は危険な目にあいにいっていると。

「ですが昨日はここにいてくださりましたよね」
「ああ、とり急いでする事でもないんでね。時期が来れば向こうからやってくるようになるだろうし」
その者は杯の酒を一気に飲み干すと、それを箱膳の上に置いた。
まだ徳利の中の酒が残っている事は分かっているはずだ。
つまり、

「ほら、あのようにな」

その時期が来てしまったという事だ。

障子を開けた窓から街路が見渡せる。主に男性と商売人が行きかうその道で、異色を放っている二人がいた。
1人は髪が雪のように白い少女。
1人は西洋の市民服を着こんだ大男。

どう考えてもこの街路にはふさわしくない組み合わせであった。

「はて、この場所が判明されるような事をしでかしたつもりはないのだが」
「聖杯戦争が始まってから何日経ってると思ってるのよ。自惚れが過ぎない?」
「滅相もありませんよ、お嬢様」
くく、と笑いながらその者は眼下の少女に意地の悪い笑いを見せる。
それでも少女の絶対の自信の態度に覆りはない。

「クリスティーナと言ったか。体に開いた穴の調子はどうかね?」
「そんな無駄口叩いてる暇があったら早く下りてきなさい。それとも宿ごと宝具で破壊してほしいの?」
「はは、怖い怖い」
手をひらひらとさせつつその者は立ち上がった。
その彼を女性は止めはしない。一見ただふらついているように見えるけれど、彼の夜の行動は確固たる意志を持って行われているのだから。

「双魔様」
だから女性はただこう述べる。
無事に帰ってくる事を願って。

「行ってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくるよ」
その者、双魔は女性に笑いかけて部屋をあとにした。


川岸、まだ浅いとは言え夜にもなれば橋以外で人通りなどあるはずもなく、いるのは双魔とクリス、そしてクリスの従える者セイバーだけだった。
その上で結界をはってしまえば、もはや一般人に気づかれる可能性など皆無に近いだろう。

「まさか遠坂邸でも霊脈でもなく、あんな普通の民宿に住んでいるだなんてね」
「だがあの場は霊脈には歩いて数分だ。それに意外と過ごしやすくてね」
軽口を叩き合うクリスと双魔だったが、双魔のそばにランサーが出現する事でセイバーの表情も厳しくなる。
当然この会話もこれから行われる事を変えられない事ぐらい二人にも分かっている。

「そろそろ皆もオレの滞在先に気づく頃だが……さすがに一般の者を犠牲にしてまで倒す気はない様だな」
「みんなそんな事しなくても倒せる自身があるんじゃないかしら」
「おまえもその1人か。確かに誰が勝ってもおかしくない状況ではあるが……」
双魔は一歩後ろに下がる。と同時にランサーは槍を取り出し、前傾姿勢で構えをとった。
クリスも一歩後ろに下がる。と同時にセイバーは剣を振り、構えをとった。

「勝つのは俺達だ」
「最後まで残るのは私たちよ」

その言葉と同時に2人の英雄は飛び出した。


巨帝の断罪剣レーヴァティン!」

服毒の屠殺者スローテール!」


interlude out




to the next stage……


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第34話に続く

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 見事にまた続いてしまった……本来なら9日目が終わっていたはずなのに……。
更新速度は早いのに展開が亀速度なのはこれいかに? でもこれぐらい詳しく書きたかったんです。すみません。
この調子で行くと大規模な戦闘は35話か36話になりそうです。目指せ50話以内での完結。

今回書きたかったのは男主人公のあやふやな所でしょうか。
Fateではヒロイン1人に辿り着くようになっていますけれど、2人同時に辿り着きそうな場合どうするのか、それが書きたかったです。
こんなふうに書いていると憐のダメダメさが伝わってくるような……。

では次の舞台、不調和音が響く転換期に。
  2007年3月16日


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