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 家出をしてから数年、僕は世界中を旅して回る事にした。
理由として、今まで対魔の一族と言う囲まれた環境で育った反動だと僕は思う。

 正直、日本の都会での人の多さにも驚かされた自分にとって世界はとてつもなく広かった。
リュック一つで世界を旅して回る、その日常全てに感動があった。
親切な人々、美しき自然、町のにぎやかさ、その全てに。

 人と出会い、そして人と別れ、さまざまな経験をしていく。それが僕には楽しかった。

 そんな風にして旅をしていた僕に人生を全て変える事が起こる事になる。


   /

 北欧の某国、僕はそこに来ていた。
日本は南北で気候が全然違い、北の方は十分に寒い。
だが、北欧のそれはそんな北の寒さをしのぐものであった。
極端に言ってしまえば、まつげまでカチカチに凍る、と言った具合だ。もうたまらない。

 雪が舞い落ちる中、やっとの思いで町にたどり着いた僕は防寒服から雪をはたき落とし、酒場に入った。
店の中には町の人たちが仕事の疲れを癒すために大勢集まっていた。
仕事の話、家族の話、面白かった本の話などさまざまな会話が入り乱れる。

 開いている席に腰を落ち着かせる僕の背後で、こんな話が聞こえてくる。

「なあ知ってるか?この町に絶世の美女が来たって話。」
「ああ知ってる、イラザがそんな事言ってやがったな。」
「ここの町の女どもはどいつもこいつもそろってブスとくるしな。一度おがんでみたいぜ。」

「だが町にいることは分かってるがそれ以外は居場所も分からないらしいぜ。」
「居場所が分からなくてどうして町にいるって分かるんだ?おかしいじゃねぇか。」
「真夜中に見かけるんだとよ。月光にてらされて輝く白銀の美女をよ。」
「ホントかよ。かぁーっ!たまらないぜ。」

始めてこの町に来た僕には分からないけれども、噂が尾ひれをつけているのかもしれないし、まあ話半分に心にとどめておこう。
すぐにウェイターがやって来たので、わりと軽めの酒を頼んだ(祖国ではともかくその国では18から飲酒はOK)。
グラスいっぱいに注がれた酒とつまみを食べながら彼らの話を再び聞くことに。

「ま、俺はここの美女にゾッコンだから目もくれないがな。」
「テメエじゃ彼女をゲットするのは無理だって。やめとけよ」
「うちの歌姫は白銀の美女なんざメじゃねぇって。」
「ま、白銀の美女を見た事ない俺にとっちゃあどちらがいいかなんざきめられっこないがね。」
「そりゃ言えてるぜ。」
僕はたまたまこの店を選んだだけだけど、他の皆はその美女が目的なにかな…?


そのうち、店のボルテージはどんどんと上がっていく。

「あんた、よそ者だろ。」
と、酒のつまみをもってきたウェイターが僕に対しそう言い出す。
…まあ、格好からしてその通りなんだけど…。

「……そうだけど…、せめて冒険家と呼んで欲しいよ。まるで僕が嫌われてるみたいな言い方じゃないか。」
「はは、違いないな。」
ウェイターは笑いながら僕のテーブルにそれらを置いていく。

「あんたいい時にこのバーに来たな。今日は一ヶ月に一度の歌姫がここに来る日なんだぜ。」
「へぇ、ぜひ聞きたいね。もしかしてここにみんなって全員その歌姫が目的?」
「残念な事にな…。いつもは商売あがったりなんでね…。」
さようですか…。

 旅をする前は芸術とは無縁の世界に生きてきた僕にとって、絵と音楽との出会いはすばらしいものであった。
旅をする先々でそれらを見、聴きまわった。
だからそういわれると興奮してくる。

 ステージの方に明かりがともると、バーの中がだんだんと静まり返る。
そして話し声1つもなくなった時、袖から人影が出てくる。

 その女性は一瞬にして男女問わずにその場にいたものを虜にした。
まだ幼さの残るその白い顔、真紅の眼、長くたなびく金の髪、繊細なる細い指。 しぐさの一つ一つが洗練されていて、人を更に戻れない所に落としていく。
そのバーにいた者、誰一人として声を上げようとはしなかった。
やがて、ステージの中央に立つと、おもむろに言葉を出す。
いや、それが言葉と言っていいかも分からないほど甘く、心をとかすものであった。

「皆さん。今日も私のために来てくれてありがとう。」
そう言って彼女はおじぎをする。

 僕は正直、夢を見ているのではないかとまで思ったほどだ。
他の人たちはもはや彼女に釘づけであった。

「こんな寒い季節になって、体も心も冷えてしまっている事でしょう。そんなあなたに 送ります。私の作曲した、この曲を。」

そう言うと、ピアノによる伴奏が始まり、他の楽器がそれに合わさり、ハーモニーをつくりだす。
が、そんな事は彼女の歌が始まった後はどうでもよくなった。

 今まで聴いた事のないような心を揺さぶるその歌声は、バーにいた全ての者を魅了した。
ある者はただ呆然とし、あるものはうっとりと。だがほとんどの者はその歌声に涙した。

「……。」

 僕も気がつけば自然と涙が頬を流れていた。おもむろに胸を押さえる。
心だけでなく、僕の全てに響いてくるその世界は深夜まで続いた。

 歌も終わり、バーはその余韻がただよう場となっていた。
かくいう僕もその余韻に浸っていた。

「で、どうだった?」
そんな僕を現実に戻したのはその一言であった。
振り返ると、先ほどのウェイターが食器を片付けていた。

「うちの歌姫は世界中探したっていないような存在だからな。 今まで聞いていた音楽が全部クズにはやがわりしたろ。」
「…たしかにあそこまでの歌を聞かせてもらった後は何も耳に入れたくないね。」
「だろ? あの歌姫は特別なんだ。うちらにとってはな。」
ウェイターは得意げに言い放つ。

たしかに今聞いたものは、今までに音楽と言われてきた全てを凌駕していた。
彼の主張によれば、歌姫はCDなどには出さず、ああやって全国を回り、その人々の全てを満たすのだと言う。
そう聞くととてつもなく彼女自身が神秘的に思えてくる。

「あれ?」
僕はその途中、あの2人の会話を思い出した。
そして、疑問に思ったことを口に出した。

「所で…。白銀の美女…って…だれ?」
その言葉を聞いた途端、ウェイターの表情が明らかに曇る。
歌姫と白銀の美女を比較に出していたからすごく気になる。
それを話題に出したくはなかったのだろう。彼の語る口は重かった。

「…ただのうわささ。全てを虜にする美女がいて。彼女に出会うと生きて戻ってはこれねえってな。」
「……世界中どこにも似たような話があるような…。」

「作り話じゃねえ。現にこの町の何人かが行方不明になっちまってる。 この町のみんなはそれを隠してやがるのさ。」
「隠してるって…何で?」
「イメージが悪くなるからだろ。だから夜は外に出歩かねぇ事になってる。
 歌姫が来てなかったら今頃町人全員が自宅で寝てるさ。」
「ふぅーん…。」
僕はつまみをとり、口に入れる。

 なおもしんしんとふり続ける雪。
歌姫に魅了されてバーに長くいたつもりだったが、夜はまだ始まったばかりだった。




全ては君の為に

第二話・日常にて


   /

 エレイシアさんは先ほどと同じ格好で町を案内してくれた。
と言ってもせっかく僕を案内するのだからと着替えようとしていたのを僕がそのままでいいと言ったこともあるけど。

「そう言えばセブンさんはこの町にはいったい何をしに?」
歩きながら彼女はそう聞いてくる。

 彼女と僕の周りには子供達がはしゃいでいる。
子供の一人はつまずいて転んだようで、ひざがすりむけていた。
手当てはしているようで、傷に泥はなかった。
これもエレイシアさんが治療したんだろうか?

「ええと…隣町の店の人にここの教会はいいって聞いたもんで……。」
「ああ、あの教会ですか。わたしはあの古い感じが歴史を感じさせて気にいってるんです。」
エレイシアさんはそううれしそうに語った。

「へえ、そんなに古いんですか。」
「と言ってもわたしも詳しいことは分からないのですが。」
照れ隠しなのか、彼女は頭をかいてエヘヘと笑う。
そのしぐさをみてかわいいと思ったのは内緒の話。

そんなエレイシアさんを見て子供達が指差し、あれこれ言う。

「エレイシア姉ちゃん、このまえあたしのお母さんに教えてもらったばっかじゃなかったの?」
「セリーヌ、たしかにわたしは教わりましたけど……。」
「エレイシア姉ちゃんがぼけたー。」
男の子がそう言い出すとみんな大声で笑い出す。

「?」
そんなエレイシアさんはゆらっとした感じでその男の子に近づく。
んでゆっくりと両手を彼の肩に置いた。
すみません、マジで怖いですから出来ればやめてくださいよ…。

「トマくぅーん……。」
「エ…エレイシア姉ちゃん……?」
トマはエレイシアさんを見て顔が青ざめ、冷や汗が出てきている。
対する彼女はにっこりと笑っていた。
マジで怖いです。ハイ。

「そんな言葉が出てくるのはここのお口ー?」
そして彼女は男の子、トマの口を両手で思いっきり引っ張った。
笑顔でそれをやるところが逆にコワい。
自分はまずやられたくないな…。

「いへへへへへっ! いはいよへえひゃん!」
「いえいえ、これからですよー痛いのは。」
予想通りの反応を示す二人。
僕を含めて周りの子供たちは大声で笑うのだった。


 1分ぐらいがすぎた後、彼女はトマから手を離し、再び歩き出す。
僕がくすくす笑うので彼女はちょっとはずかしそうにする。

「すみません、見苦しいところをみせちゃって…。」
「いや、楽しそうでいいね。僕が小さいころはこんなはしゃいだ事なんてなかったからうらやましいよ。」
「あ、そうなのですか…。」
すみません、と彼女は頭を下げてしまった。
…しまった…テンションをおもいっきし下げた気がする…。

「だから旅をしている間はもう楽しくて楽しくて。本当によかったって思ってるよ。」
あわててとりつくるらへん、僕は会話に関してヘボっぽい。
でもそれが功を奏したようで、少し表情が和らぐ。

「そうなんですか。旅に支障がなければ今日にでも旅のお話を聞かせてくださいよ。」
「いいよ、旅の面白いことはいくらでもあるんでね。」
僕はそう言って胸を叩いた。
自慢じゃないが面白いことと言えば僕の失敗談ぐらいしかないのがキズだが…。


 そんな事を話しているうちに、教会が見えてくる。

「あれが町にあるかなり古い教会です。」

それはキリスト経でない自分にとっても神秘的なものだった。
他の地域や国の教会は数多く見てきた僕だが、なぜかこの教会には心ひかれた。
ゴシックだかロマネスクだか僕は建築方式には疎いので分からないが、 とにかく古いと言う事は分かった。

「フランス王国前期に創られたとまでは分かりますけどそれ以外は…。」
「まあ……聞いても僕も分からないだろうから無理に思い出さなくてもいいよ。」

 でもなんでここまで気を引かれるんだろう……。
エレイシアさんは教会の扉を開け、こちらに入るように促す。

「今はお祈りの時間ではありませんし、入っても大丈夫ですよ。」
僕はその言葉に従い、教会に入ることにした。


 教会の内部は電気は通っておらず、明かりはロウソクのみであった。
近代の教会だと電気が通っているのがあたりまえだしなぁ……。
巨大なパイプオルガンが側面にあったり、ステンドグラスから差し込む幻想的な光がまた心をひかれる。

「すごい…。」
僕は思わずその言葉を口にした。
色々とこの建物を表す言葉がうかんではくるが、この言葉が一番しっくりとくる。

「でしょう、フランスの中でも指折りの美しさだとわたし思うんですよね。」
エレイシアさんが僕の意見に同意して、奥の方に行ってしまう。

「でもまいにち見れるからあきるよ。」
「そーそー、あきるよねー。」
「僕もっと都会の『びる』とかのほうがいーなー。」
子供たちはわいわい騒ぎ出す。

…まあそうだろうなー…。
毎日見てるのなんて失って初めていいと思う事すらあるわけだしその意見は否定しない。
それでも僕は数年間世界を旅してきたが、歴史を感じさせる方が好きである。

「セブンさん。」
エレイシアさんが奥の方から出てきたが、彼女の隣には若い男性がいる。
服装からして間違いなく神父であった(フランスだし牧師はないだろう)。

「こちらがここの教会の神父様であるアレクさんです。」
「アレクです。始めまして。どうぞよろしくお願いします。」
そう言って彼は僕に手を差し伸べてくる。
僕はそんな彼の手を握り、握手をした。

「本名はすみませんが言えません。セブンと呼んでください。」
「…分かりましたセブンさん。」
いささか不思議そうな顔をしたが、すぐにアレクは笑顔に戻った。

「すばらしいでしょう。僕はここの教会に勤められて幸せものですよ。」
彼はそう言ってうれしそうに回った。
少しうかれすぎじゃあないか?とも思ったけど口には出さないでおく。

「たしかにここの教会には何か惹かれるものがあります。」
「そうでしょう。僕は誇りに思いますよ。」

僕は今まで気づかなかったが、教会の中にいたのは僕らだけではなかった。
椅子の片すみに女性が座っていた。確か彼女は宿で朝食を取っていた人だ。

「何なら懺悔でもしてみますか?」
「ザンゲ?」
トマ(だったと思う、多分……)がアレクに聞きかえした。
見ると子供達が興味津々にアレクの方へと眼を輝かせていた。
その彼はかがんで述べる。

「懺悔は今までの自分のしたわるさを言って、神に許しを願う行いですよ。」
『へぇー。』

子供達が歓心の声を一斉にあげた。
すごいねーとか色々と騒ぎ出して…

「じゃあ僕から僕からー。」
トマがまず懺悔室へと入っていった。
ずるいーとか子供たちは声を上げながらそれを見ている。

懺悔室は、神父と懺悔をするものが別々に入り、小窓からその者が神父に罪を話すのだ。
薄暗いのでプライバシーは守られる。
人間誰しも秘密を秘密のままにしておく事は出来ないのだから。

「ようは人間だれしも罪を一生心の中に留めることはできない…と。」
「え? 何か言いましたか?」
「えっ!?」

僕はひとり言を聞かれたとは全く思っていなかったのでビックリした。
後ろに立っていたのはエレイシアさんだった。
聞こえないようにつぶやいたのに……。少しはずかしくなる。

「セブンさんは何か告白するような罪ってありますか?」
彼女がこう聞くので、僕はつぶやくように答える。

「……僕のはとても告白できないようなものだから……。」
僕に言えたのはそれぐらいだけだった。

そう、僕には告白できるものがない。
僕の悩みは、とても深く、僕の内面に関わっている。
神をあまり信じない僕は、懺悔が神父にだけ秘密を打ち明ける行為にしか思えない。
それに、言っても助言はもらえないだろう。
 なぜなら僕は……。

「何言ってるんですか。その告白できないことを告白するのが教会ってものではないのですか?」
そんな僕の考えとは正反対に、彼女はそう言ってくる。

「…まあ…そうかもしれないけど…。」
……困った。返す言葉が思いつかない。
否定が出来ない分、なおさらに。

懺悔室の方ではトマが出て、女の子が入っていく。
必死に足りない頭を回転させていると、ピーンと反撃策を思いついた。

「そんなに進めるならエレイシアが入ればいいじゃないか。」
「え…っ?」
そう僕が聞き返すと、エレイシアの視線が僕の顔から外れる。
顔は僕の方を向いており、明らかに自分にこう聞き返されるとは思っていなかったようだ。

「ダイエットに失敗したとか友達から借りた金をふみたおしたとか。」
「そんなことはしてません!」
あ、少し怒った顔も可愛いかも。

「じゃあ何を?」
「まあ…それは置いておいて…と。」
「ごまかしかい。」
僕のつっこみはどこへやら、エレイシアは子供たちの方へとかけていく。
その一瞬前に視線が僕から外れていたのを見逃さなかった。


 僕は少し呆れながら今朝宿屋で見かけた女性の方へと歩む事にした。
金髪で見かけは学生、目は鮮やかなスカイブルーであった。

「やあ。」
僕はさりげなく声をかけた。
僕に気づくとこんにちは、と彼女も僕に挨拶をかわす。

「あ、どうも。すばらしい建物だと私思うんだけどあなたはどう?」
「え?ああ、いい教会だと思うよ」
彼女はその僕の言葉に反応し、手を握ってきた。

「やっぱりあなたもそう思うでしょ! 芸術は理論とかえらそうな学者の言葉じゃなくて心に呼びかけてくるものよね!」
彼女はそう言って感動に浸る。
僕の存在はまるっきり無視です、ハイ。
そんな僕も感動すると周りが全然見えなくなってそれが元で死にかけた事あるけど。

 彼女はそんな僕の思いを察してか、急に現実に戻ってくる。

「あ、ごめん、私はレア、ここじゃないけどわりと近くの学校に通う学生よ。」
「僕はセブンって呼んでくれ。あんまし本名って好評じゃないんであだ名みたいなもんだけど。」
「あははっ。おもしろーい。」
彼女はころころと笑う。
この笑いを見てドキッとしない男は既におわってるだろう。男として。

「そろそろ別のところを案内したいと思いますけどいいですか?」
エレイシアは子供を連れてそう言った。
全員懺悔は終わったようで、面白かったと満足げの顔を浮かべる子供もいれば、 不満げな顔の子もいる。

…何があったのか後で聞いてみよ…と思ったのはまた別の話。

「そうだね、何も町は教会だけじゃあないし。」
「それでは行きましょう。」

 レアはもうしばらく教会に残る事になった。彼女は僕の方に手を振ってくれている。
一方の神父アレクはなにやら言いたげな顔つきをしていた。そして、決意を固めたのか、僕の方に寄ってくる。

「セブンさん、まさかとは思いますが…。」
「なんですか?」
首をかしげる僕に対し、神父は耳打ちをする。
その言葉で僕は驚愕し、かろうじてこう答えた。

「……知りません。聞いた事もないです。」
「そうですか…。万一の事があれば私は……。」
僕は彼の言葉を全部聞かずに教会を後にした。

「次に行こうと思うのは町一番の職人でもある……。」

エレイシアの言葉は耳に入っていたが、既に僕の中には神父の言葉がエコーする。
それはこういうものであった。


『……シトをご存知ですか……?』



   /

「これであらかたの所は案内し終えたと思います。」
「わりとあったねー。失礼だと思うけど、もっと少ないかと…。」
「あ、ひどい。それって偏見って言うんですよ。」
そう言ってエレイシアさんは僕の方に詰め寄ってくる。
それを笑ってごまかす僕。

 時刻は夕方。地元のワイン農家、料理人、学校など色々な所を教会の後にめぐった。
人は皆やさしく僕をむかえてくれた。それが僕には何よりもうれしかった。
都会では人間関係がギクシャクして、とても他人と仲良くなる余裕なんてないし、やっぱり僕は地方の方が好きだった。

「そろそろ夕食の時間ですし、宿に戻るのでしたよね?」
「ああ、そのつもりだけど…。」
そろそろ宿の女主人が夕食を作ってくれているはずだ。
何気に遅れるととんでもない目にあうし…。

「でしたらわたしの家に来てくださいね。夕食ぐらいご馳走しますよ。」
「え?」
突然の提案に少々驚く。
たしかにその提案はありがたいけど宿の夕食を無駄にするわけには…。

僕がそう頭を抱えて悩んでいると、エレイシアさんは自分の胸を叩いた。

「大丈夫です。ジュリーさんにはわたしから言っておきますから。」
「ジュリーってあの女主人だったっけ。でもよそ者の僕がご馳走になるのも…。」
「かまいませんよ! 1日ぐらいで困るほどではありませんから。」

明るく言うが、そのギャグは笑えません。ハイ。

 うーん…。
しばらく考えて僕はうなづいた。

「分かったよ。それじゃあ今晩はエレイシアさんの家でごちそうさせてもらうよ」
「分かりました! わたし自身が今日は腕を振るいますから期待してくださいね!」
エレイシアさんは満面の笑みを浮かべてはりきる。
僕はそれを見て自然と嬉しくなってしまった。

お金の損得なしにこうして食事に誘われるのはとても嬉しい。
だって、そこには心と心の通い合いがあるから。
僕はこれが都会にはない暖かさだと実感している。

「え……?」
「……」
「姉ちゃんが……」
だけど、エレイシアさんのその言葉に周りの子供達が青ざめている。
あるものは視線を明らかに遠くへ向け、またある者は唐突に世間話を開始する。
……何ですかこの反応は? とてつもなく気になるんですけど…。

「……どしたの?」
僕は一番反応があったトマに対して聞いてみる。
答えるのも嫌そうな顔をしたが、何とかなだめると、彼は口を僕の耳に近づけた。

「……エレイシア姉ちゃんってさ…。あたりはずれがものすごいんだ…。」
「あ…あたりはずれ…?」
…すごくいやな予感がしてきた。
トマは妖怪に遭遇したような口調でなおも続ける。

「そうだよ。この前作ったシチューは僕たちが食べたんだけど……」
「……食べたんだけど…?」
「……気がついたら何時間も経ってたんだ」
な……何時間も?
それってもしかして、気絶してたって事……?

「なーにを話してるんですかートマ君?」
僕ら二人はびくっとしておそるおそる後ろを向く。
気がつけば笑顔でエレイシアさんが立っていた。
と言ってもナンダカトテモコワイノハボクノキノセイデショウカ?

「後でそのへんの誤解を解く必要があるようですね。そう思いませんか?」
「え……。」
「それではセブンさん。夜にまたお会いいたしましょう。」
エレイシアさんは笑顔でそう言うと、細い手で、ただ力強くトマの手を握りながら去っていく。

「あ…ああ…そうだね…。」
僕はかろうじてそう言うしかなかった。
残されたのは僕と女の子二人(たしかマノンとセリーヌっていったっけ)。

「セブンお兄ちゃん…。」
「…なんだい…?」
セリーヌの方が僕に声をかけてきたが、顔はものすごくさえない。

「がんばってね…。」
「あ…ああ…。」
何ですかその意味深な発言はーっ!


とにかく一度宿に帰って準備でもしようか。
何しろこれから人に招かれて、そこでご馳走になるのだから、身だしなみぐらいは整えなおさないと。
だが、僕はその足をふと止めて、気がつけば教会の方へと向けていた。

夕方になって、教会の壁はオレンジ色にそまっていた。木も、草も、花も、全てがオレンジ色に。
それはもう鮮やかに。

「……」
僕は教会の扉を開け、中に入る。
先ほどとは違い、いたのは神父1人だけであった。

「待っていたよ。必ず来ると思っていた」
僕が扉を閉めるなり、彼が口を開いて出たせりふはこれであった。
正直第一印象があまり良くないからそのまま帰りたいのだが…。

「1つ、聞きたいことがある」
「……大方の検討はついているよ。君からは……危険なにおいがする」
眼鏡の奥は見えなかったが、明らかにするどくなったようだ。
なおも彼は続ける。

「まさか昼間から君たちを見るとは思わなかったよ。君たちと出会うのは夜の世界だけだと思っていたからね」

「……っ!」

自分でもその言葉に動揺するのが分かってしまう。
神父のこの発言、もしかしたら……。

「分かって、いるのか?」
「ええ。雰囲気が普通の人間と全く違いますから」
そう、と言いながら神父は鋭い目をこちらに向けてくる。


「君は人間ではない。死徒と呼ばれる、神にあだなす者です」


返事はしない。する必要はない。
全てを分かっているなら、反論の必要がない。
だけど、

「……その言い方だと、奴らと戦ってきたかのように聞こえるけれど」
「……あるんだよ。私も彼らと……いや、君たちと戦った事がね。」
僕は答える言葉に迷ってしまい、会話が中断してしまう。

 やはり、明らかに、この人物は、ヤツらを知っている。
夜の世界に住みし、人間などおよびもつかないあの世界を……。

「で、僕がアイツらの仲間だってわかってどうする気?」
これ以上否定してもどうしようもないのであっさりと事実を認める。

隠す必要もない。それは僕自身も事実として素直に受け止めている。
だけれども、別に僕は彼と戦う気は一切ない。
たとえ今すぐにでもコイツが武器を持って僕に襲いかかろうとも。

そして、僕自身がこの街で何かをしようとは全く思っていない。
そんな事には興味がないし、むしろ嫌悪感が沸くだけだ。
僕は、夜の世界より、昼の世界の方がいい。

だが彼は何もしようとはしなかった。
ため息をついて、なぜか疲れきった表情で再びしゃべりだす。

「実は昨日から警戒はしていたのですが、人を襲わないとはね。めずらしい」
「うあ、それってストーカー?」
「この町の安全のためですよ! あ・ん・ぜ・ん!」
もちろん冗談で言ったつもりだ。

ヤツらならたった一晩で町が変わりかねない。それは分かって言っているつもりだ。
神父の対応はいたって当然の事だろう。
町の人たちを守りたい。その気持ちがあるのなら……。

「なぜあなたが昼間でも行動できるかはさておき……」
彼の目つきが明らかに変わった。
それは幾度となく僕が見た事がある、狩る者の表情だった。

「……」
普通僕らの中でこれだけおとなしい者など絶対にいない。
だから神父が僕を煙たがるのは当然の成り行きだ。場合によっては排除しようとするかもしれない。
これは覚悟する必要があるか……? 
一応武器のある腰に意識を向ける。

「今後この町にい続ける気かい?」
「え?」
だから神父の言葉に若干戸惑う。
問答無用かと思っていたのだけれども。

今後街にい続けるか。たしかにそれは問題だよね。
でも神父には悪いけど、僕は正直に答える事にした。

「うーん……。気分しだい?」
「はあ?」
神父は予想通り間抜けな声をあげた。ちょっと反応が面白い。

「僕はアレだって携帯用のもので最低限しかすましてないし、人間としての人生謳歌したいしね」
とあっさり言い放つ僕。

……この結論にたどり着くのに何年かかった事やら。そしてどれだけ悩んだやら……。
その結論にたどりつくのには長い期間が必要だった。
そう、僕がそれまでに培ってきた人生の全てを否定される事になったのだから。

それがどれほど僕にとってはつらいものだったか……。

まあ、今はこうして旅をしながら以前と同じような生活を続けている。
昼間を生き、楽しむ生活を。
僕はそんな自分がとても気に入っている。

対照的に僕の言葉を聞いた神父は呆れ顔だ。
まぁ当然だろうなあいつらの仲間である僕がこんな事を言うのだから。

「…まあいいさ」
彼は緊張感を若干とき、肩をすくめる。

「あら、意外とあっさりとあきらめたね」
「それは違う」
だが意識は依然こちらにむけられたままだ。
その表情はかたい決意がうかがえた。

「万が一この町に何かがあるようだったらその時は……」
「分かっているよそれぐらい。だけど……」


 僕は教会の扉を開けて外に出ようとする。
夕日が山に隠れてまるで巨大な宝石のようになっていた。
雲やオレンジ色の空とのコントラストが美しい。

そんな光景を見ながら、僕は1人でこうつぶやく。

「僕自身もそんな事がないのを祈っているよ。貴方も祈っていてください」




to be continued…


   /the next foryou

 北欧に来ていたセブン、彼の運命に白銀の美女と北欧の歌姫が静かに交錯する。
そしてそれがセブンにもたらすものとは…。
次回の『全ては君のために』第三話、北欧の歌姫と白銀の美女と


第三話に続く

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  まだここでは一向に本筋に行ってませんね…。少し飛躍しすぎたかもと思うと反省しています。
さて、今回は描写を若干追加しただけで終わらせました。ですが3話はかなり修正するかと思います。
自分でも納得いっていない箇所が多くあるので、かなりの容量になってしまうかもしれませんけど…。
始めこの作品を書いていた時は全三話ぐらいで終わるかなーと思ったら、全然終わりませんでした(爆)。
それでは改訂した第三話、夜の街でお会いいたしましょう。
  2006年4月4日 第二回改訂


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