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次の日、学校では全校集会が開かれた。マスコミが体育館の端で今話している校長に向かってレンズを向けている。もちろん話題は先日聞いた、蓮城の死亡についてだ。
「――彼は柔道では全国大会にでていて――」
非常に残念そうに語る校長。まるでニュースの一場面のようだ。そんな俺は一応その場にはいたが、ほとんど話は聞いていなかった。
とりあえず新聞やテレビで知った事を列挙してみる。
見つかったのは朝方だが、死亡推定時刻は夜の2,3時。それまで何をしていたかは謎。
凶器はナイフなどではなく、包丁で斬られた事による失血死。刺されてはいない点から中華包丁かもしれない。
抵抗の跡が見られたが、ほとんど一方的にやられた点から屈強な男が犯人だと警察は見ている。
死亡場所は住宅街。あいつの家の近くらしい。夜だと人通りは全くなくなるようで、誰も事件に気づかなかった。
……こんなものか。
まあ、今日はこの長い話が終わった後は授業があるだろう。が、それを受けるつもりは俺にはなかった。
てなわけで2時間目からは完全にサボタージュして、俺は学校を後にしたのだった。
そうして来たのは駅だ。俺はこの町に住んでるから電車いらずで高校に通えてしまう。おそらくたいていのあの学校の生徒は電車にのって通学するだろう。そんな俺も別の学校に電車で通っていたし、駅は馴染み深いものがあった。
……しばらく待つ。時刻表を確認したら普通列車行ったばっかかよ。この駅急行止まらないからおおよそで七,八分間隔なんだよなー。朝は五分ぐらいだけど、それで今日の運勢見てたようなものだし。
この時間やっぱ暇だな。小説でも読むか。
「あれ? 七瀬くんもさぼり?」
「へ?」
いきなり声をかけられたので間抜けな声を発する俺。本当にものすごく間抜けだ。本から視線を移すと、そこにいたのは、
「円?」
「いけないんだー。先生に言ってやろー」
「自分もさぼりなくせによく言う」
制服を着込んだ円がそこにいた。
制服のままでカバンを持っている点から、彼女が学校帰りなのは分かる。でも今はまだニ時間目だぞ。授業をしっかりとやってる。つまり、彼女もさぼりってわけ。
「で、七瀬くんはなんで制服じゃないの?」
「俺の家は学校から徒歩でいける距離にあるんで一回帰った。それだけ」
「あ、いーなー。あたしは電車で結構距離あるから帰れないのよー。うらやましいよ」
まあ、確かに家が近いと忘れ物も簡単に取りにいける上にさぼりたい授業だけさぼって家にいる事もできる。かと言って自分はそんな気は全くない。なぜなら……、
「じゃあなんで電車に?」
「生徒名簿から蓮城の家を調べたんでな。あいさつぐらいはしておこうと思って」
「あ…」
円の表情がとても暗く沈む。そして、俺から視線をそらせた。
「もしかして円もそうだったのか?」
「あ、うん……。あたしって結構蓮城くんと親しかったじゃない。おばさんとも話したことあったし、だからいてもたってもいられなくなって……」
「……何となくだけどそれ分かるな」
俺もいてもたってもいられなくなって授業さぼったし。
『間もなく、二番ホームに各駅停車、○○行きが参ります。危ないですから白線の内側までお下がりください』
いつものようなアナウンスが流れる。対面式ホームだから、電車は高速でやってくる。迫力があって俺は好きだ。
「でも転校してきて数日なのに、よく蓮城くんの家に行く気になってくれたね。ただのクラスメイトだったら葬式行くだけでおしまいな人が多いし」
「転校したてで話し相手になったのはあいつからだからな」
だからこそ、一体何が起こったかを知りたくなったのだ。
「一体誰がアイツを殺したんだろうか……」
「新聞には屈強な男って書いてあったけど?」
「…狙う理由がないぞ。ただの通り魔にしてはおかしすぎる」
通り魔なんて所詮自分より弱い存在を攻撃する者だ。柔道で全国大会まで行ってるやつにそこらの通り魔ごときが太刀打ちできるとは思えない。だからこそ、真実は明らかにすべきだと思う。
「それに……」
俺は自分の手を見る。
触れたものの記憶を全て視る能力。サイコメトリスト。はっきり言って今までわずらわしいだけのものだったこれ。今回始めてそれを使うかもしれないな……。
「誰かが明確な動機を持っていてやったんだったら……」
「え? 七瀬くんは治雄くんがそんな人から恨まれるような事をしてるって思ってるの?」
「う、あ、いや。そうは思って……」
思って……。
「分からん」
たった数日の付き合いでその個人だけならまだしも、その周りまで見ることなんて無理だ。
「なによそれー」
「いや、だったら逆に聞くけど、どうだったんだ蓮城の奴は」
不満を言う円に俺は逆に聞いてみた。てゆうか彼女はあいつと俺よりはるかに長く付き合ってたんだから、俺よりはるかに彼を知ってるはずだ。
「そうね、別に少し好奇心が旺盛なぐらいで、他には殺されるほどうらまれるような事はしてないはずよ」
「そうか」
ここで漫画とかだったら、とんでもない過去を持ってたとか交友関係に裏があったとかになるんだろうけど、それがなくて少しほっとする。うーん、だとしたらやっぱ通り魔か……?
「でもね……」
ん、まだ続きがあるのか?
「彼はね……………」
彼女は何かをつぶやいたようだったけれども、それは電車がやって来た轟音で全てかき消されてしまった。俺には口から読むなんてもちろん不可能だから、何を言っていたのかさっぱり聞き取れなかった。だが、それを口にしている彼女の表情は、おとといほどではないがいつもと違って見えた。
「すまない、もう一度言ってくれ」
「いや。秘密だもん」
電車が止まった後、俺はそう言ってみたが、あっさり却下かよ。調子も元に戻ってるし。……すっごく気になる。
「教えてくれ」
「いや」
「てゆうかむしろ教えろ」
「いきなり命令口調!?」
むろんの事ながら、それを聞きだす事はできなかった。
電車の中は閑散としていた。通勤時間からは結構ずれているし、電車は都心とは逆方向に進んでいるからだ。よって俺達はちゃんと座れるだけの余裕があったわけで、隣同士でゆったりしている。
通勤時間特有の息苦しさもなく、空調が聞いているのでとても心地よい。電車のモーター音、線路の音、空調の音。それぐらいしか聞こえない。普段の俺だったら間違いなくその場で眠ってしまっていただろうが、今の俺にはそんな余裕はない。
一体なぜ彼は殺されたのか。なぜ殺されねばならなかったのか。こういうのは素人がやるべき事ではない事ぐらいは分かっている。だが、それで引き下がる俺ではない。
「納得するまでやるまではな」
勉強やらテストやら体育やらならまだしも、人の命を失ってまで妥協する気は全くない。その一手として、まずはあいつの実家を訪ねれば何かしら分かるはずだ。日記とかがあれば最高なんだが、俺もつけようと思って一ヶ月ぐらいしかもたなかったしな……。
「う……ん……」
「……はい?」
そんな悩んでいる俺を完全に外にして、円は事もあろうに、俺の肩に頭を乗っけてきましたよ。って事は眠ったんですかー?
「これは駅まで眠ったままだな……」
別に肌が触れてくるわけでもなかったので、俺はこのまま放置する事にした。実に居心地よさそうに彼女は寝息をたてている。間近に彼女の顔が迫っているので、ちらっと横目で見ておく。
「……」
……かわいい。はっきり言ってかわいい。蓮城がころっとやられるのもすっごくうなづけてしまった。てゆうか俺もあっさりやられそうだ。俺こんな彼女と今まで話してたのか?
うー、おちつけ俺。てゆうかさっきまでの悩みはいったいなんだったんだ? あーもう!
てなわけで俺は結局もんもんとしたままで電車タイムは終了したのだった。
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「おばさま、こんにちは」
「……円ちゃん……」
蓮城のやつの家は一軒屋。わりと大きめ。駅からは数分のところで、商店街もある。いいところ住んでやがったな。
そんな蓮城の母親はとても暗かった。……まあ、息子が死んだのだから当たり前か……。
「……今回は本当に残念でした」
「……ありがとうね」
円の言葉と同時に俺も彼女と同じように頭を下げた。母親は若干笑みを浮かべたが、また暗くなってしまった。彼女はそうしてから俺の方に視線を移す。
「そちらの方は息子の同級生ね。わざわざ治雄のために来てくれてありがとうございます」
「……この度は本当に治雄くんにはお世話になっていました。今回は本当に残念です」
俺はそう心の底から述べる。
本当に数日間だけの付き合いでこんな気分にさせるのは彼が初めてだった。本当に惜しい。
「……あがっていく?」
「……それではおじゃまします」
また頭を下げて、俺達は蓮城の家にあがる事にした。
彼の家はそこまで変わった所はなかった。目についたのは壁にかけてある絵画ぐらいだろうか。部屋の雰囲気は明るくコーディネートされているはずだが、やはり部屋の雰囲気はとてつもなく暗かった。
「今お菓子を用意するから……」
「あ、どうぞおかまいなく」
わざわざ息子を失った母親にお菓子を出させるわけにはいかない。だから俺はさっさと本題を述べる事にした。
「実はおばさん、今日は彼の部屋を見せていただきたいのですが」
そう、これが目的だ。おばさんには非常に申し訳ないが、俺は立ち止まってはいられない。時間は貴重だから。
「え……? それはかまわないけど……」
「ありがとうございます」
お礼を述べて、俺はさっさとその場を後にした。
蓮城の部屋は俺のとは全く違っていた。何というか、俺よりずっと高校生らしい部屋だ。壁にはアイドルのポスター、本棚にはヤング系や少女系の漫画とある程度の文学小説。月刊の漫画が並び、ファンタジーやSFが好きでそのたぐいの小説しかない俺とは大違いだ。
「さて、まずはアイツの手帳だか日記だかを探すか」
パソコンでブログつけられてたんではたまったもんではないが、あいつはそんなタイプではないと見た。日記なんて大学ノートでも書けるから、片っ端から探すか。
「えっと、まずは……」
と俺は一冊目のノートを開き……思いっきり閉めた。
「は?」
んで大間抜けな声を発する。えっと……、俺が見たのは何だ?
「んー」
もう一度見てみる。うん、書いて……いや、描いてある内容に変わりなし。どうやら目の錯覚ではなさそうだ。
「これ少女漫画か?」
しかも鉛筆書き。えっと、つまり、これはー……。
「あいつ、漫画描いてたのか……」
人は見かけによらないというが、本当に見かけによらないな。俺も少女漫画もたまになら読む。ちなみに最近ガラスの仮面にはまった。だから別に偏見を持っているわけじゃないが……。
とりあえずペラペラページをめくっていく俺。内容はめずらしく男子高校生が主人公。あこがれの女子生徒になかなか告白できないでいるという話だった。よく見たらこれって何冊にも渡って書かれていた。絵はうまい。けどストーリーにまだあらが目立つかな。
「あれ? これってもしかして……」
もう一度よく見てみる。うん、やっぱり間違いない。これは実生活を元に書かれているものだ。
「どおりでストーリーにあらがあるわけだ……」
実生活にそう簡単に漫画のネタになるもんなんてないし。当たり前といえば当たり前か。という事はこれにもしかして手がかりがあるかもしれない。
「よし、片っ端から読んでみるか」
そんなこんなで数十分ぐらい経過したか。結論、最近の話になってもまだ何も見つかってません。その数なんと数十冊。一体どれだけハイペースで書いてるんだっつーの。と、漫画の中で転校生がやってきた。デフォルメされているが、間違いなく俺だ。
「…将来いい漫画家になれただろうな……」
そう思いながら俺はなおも読み進めてみる。
んでとうとう俺があいつと最後に会った日、つまりおとといの部分に入る。どんな事が書かれているのか期待しながらめくってみたが……ん? 白紙? という事は漫画は三日前で終わりか?
「手かがりはなしか……?」
あ、でもその前に丁寧だが、ノートの一部分を取った形跡がある。って事は何か書いたが破り捨てたのか?
俺はとりあえず居間の方を見る。おばさんと円がなにやら話しているから、こっちには当分来ないだろう。なら、決まりだな。
俺はそう思うと手袋を外した。はっきり言えば、俺は肌に触れたものを無差別に記憶を読み取る能力があるせいで、一年中手袋が離せないし、長袖長ズボンだ。よって夏は嫌いだ。
「んな私事はともかく……」
まずは落ち着いて深呼吸をする。そして、その漫画本に手を触れた。
「う…く…」
一瞬にして膨大な量の情報が俺の頭に流れ込んでくる。おちつけ、このなかから必要な情報だけを抜き取るんだ。つまり、おとといの情報を……!
「……見えてきたぞ……」
夕方、あいつが部屋の中に入ってきた。そして、席に座り、この本を手に取る。その表情はとてつもなく嬉しそうだ。
「あー、そういえば「俺に青春が来たんだ!」とか言ってた後だったか」
で、その青春の相手とやらは……分からなかった。個人名を書いていなかった。分かったのはその青春の相手とやらに会うってぐらいだ。
んでそれから数時間置いて、あいつが帰ってきた。その表情は……殺気とは対照的にこの世の絶望を見てきたようだった。そして狼狽しまくりながら席に座って、このノートを取る。ペンは震えながらも、必死になってノートに何かを書きなぐっている。……文章?
あいつはこう書いていた。
『俺は見てはいけないもんを見てしまった。このままだとあいつに殺される』
「何があったんだ?」
だが、その続きを書こうとしたあいつの手が止まり、それを書いた部分のページを破り捨てた。そして、またあいつはでかけてしまった。
そして、それっきり、あいつは帰ってこなかった。
「……なら次にやる事は決まりだな」
その青春の相手とやらが全ての鍵を握る奴である事に違いはない。かと言って片っ端からサイコメトリーなんてやってたらこっちの精神がもたないし……、警察がいなくなったところを見計らって現場をメトってみるしかないな。
「それ漫画?」
「うわああっ!」
俺は思わず大学ノートを放り投げて、思いっきり後ろに下がった。間抜けだが大声を出しながら。
俺の背後にはいつの間にか円がいた。よっぽど集中してたのか、接近には全く気づかなかったけれど、心臓が飛び出るかと思った。
「ま……円……?」
「そうだよー。まるであたしが悪魔みたいじゃない」
いや、いきなり後ろに立たれてて、しかもいきなり声をかけられたんじゃあ大声を出したくもなるって。
「おばさまの話だと、彼の友好関係は良好だったそうよ」
「そうか……」
やっぱりその青春の相手とやらを見つけない限り進展はありそうにないな……。うん、ならやっぱり夜に行くか。
「じゃあ今度は俺が向こう行ってるから、部屋で何かするのか?」
「……そうね、そうさせてもらおうかな」
「分かった」
俺はそのまま部屋を出て、おばさんの所に行く。
ちなみにおばさんとは色々と話はしたけど、俺は今後の事で頭がいっぱいで、何を話したか全く覚えていない。
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「さて…、橙子さんにああは言われたけど……」
僕は橙子さんに事件のファイルを手渡されてから、まずは3人の被害者の接点を探ろうと思った。なので彼らの地元に来てみたんだけど……。
「全く共通点がないな」
そう、交友関係から学校、塾、部活などもばらばらで全く接点がない。当時の友人たちに話を聞いてみても、他の被害者については全く知らないようだった。動機があるならまだしも、無差別殺人となると調べ上げるのが困難になるんだけどな……。
「と言っても、こんな事で頓挫してたら生活がかかってるんだし、だめだよね」
理由がものすごく不当だけど、ゆずれないプライドというものもある。ならとりあえず当時の状況をより詳しく突きつめてみるか。
そんなわけで僕は図書館にやって来た。地元の図書館のわりにそこの図書館は所蔵が多く、過去のデータも多いので最適だろうと僕は思ったからだ。それに、地元でしかないデータもある。
平日の昼間だけあって、図書館の中は落ち着いていた。きているのは地元の主婦や、老人や子供たちばかりで、僕らの年代はいないかもしれない。とりあえず過去の新聞から当たる事にしようか。
新聞エリアにやって来た僕。予想通りというか、やっぱり過去のデータは地下にしまってあるんだろう。ここにはありそうになかった。そう思った僕は引き返そうとして……、
「うわっ!」
誰かとぶつかってしまった。
「あっ! ごめん……!」
その誰かが床にばらまいてしまったものを僕も一緒になって拾い集める。
「ちゃんと後ろを確認しなかった僕が悪いんだから……」
「いえ、前方を確認してなかった俺の方が悪いんスから気にしないでください」
どうやら彼は高校生ぐらいの年代のようだ。わりと暑くなってきているのに、長袖に手袋までしている。あれで本がめくれるのだろうか?
拾い集めたものは、新聞の束だ。日付は……昨日か。……とりあえず彼にも聞いてみるかな……?
「ねえ君」
「? なんスか?」
「この三人だけど……、誰かに見覚えある?」
僕はそういいながら犠牲者三人の写真を見せた。もちろん事件当時のじゃなくて、生き生きとした時の写真だ。
「……いえ、ないっスね」
彼は若干考えてからそう答えて写真を僕に返す。
「そう、どうもありがとう」
「いえ、お役に立てなくて残念っす」
彼は軽く会釈をして開いている座席の方に向かっていった。
地下室から僕は当時の新聞を引っ張り出してくる。この図書館は五,六年ぐらいのものならとってあるそうで、国立図書館に行く手間がはぶけてよかった。開いている座席は…と。
「あらら」
さっきの彼の隣だけか……。熱心に新聞を読んでいる横で僕も熱心に読むとしようか。まずは林くんのから……。
結局ファイルにあったのと僕が聞いた事に少し憶測が追加されたぐらいでしかなかった。警察は犯行手段から犯人は屈強な男としているけど、結局手がかりはあってもそれが解決には結びついていないらしい。とすると今度は警察関係者から少し話を聞いてみるべきか?
「……やっぱり動機面から探っていくしかないか」
数年前の犯行だからこれ以上の証拠は見つからないだろうし、手がかりを地道に見つけていくしかない。これは根気の要る作業になりそうだ。
「……」
そう言えば最近のニュースを見ていない。見る機会も中々得られなかったし、世間事情とはご無沙汰だ。
「君、これ一個読んでもいいかな?」
僕は隣の彼にそっと話しかける。彼も何らかの作業中だったけれども、僕に不快感を示す様子はなかった。
「あ、さっきの人っスか。かまわないっスよ」
「ありがとう」
もちろん取ったのはスポーツ紙ではなくて、ちゃんとした新聞だ。と言っても日経新聞ではない。夕刊だけど。
……やっぱこの数日だけで世界が大きく変わったわけじゃないか。それでも一面からテレビ欄まで全部を確認してみる事に。
世界、政治面、経済面、スポーツ面、広告。そして社会面。『現金強奪』とか『ガス事故で数人が病院に』などがある。が、僕の目をひいたのはそれらではなかった。
『高校生、無残な手口で殺害』
「これは…!?」
『今日の午前七時ごろ、……で地元の高校生、蓮城治雄さん(十七)が殺害されているのを地元の会社員が発見した。 警察の調べによると死亡時刻は午前二時ごろで、中華包丁のようなものでめった斬りにされていた事による失血死が死亡原因であるとされている。これを受けて警察は――』
「まるで……!」
記事を読めば読むほどそれの思いが強くなっていった。
これはまるで僕が調べてる事件そっくりではないか、という事だ。
「どうしたんスか?」
「あ、いや……、何でもない……」
不思議な目で見る彼に弁明しつつ、視線を新聞に戻す。
声がでかかったか、少し失敗したな。とにかく、この事件が以前の三つと関係があるのなら、その線で調べてみるのが一番だな。そういった手がかりを得られた意味で、彼には感謝しないと。
そこで僕はようやく気づいた。
「これは……?」
彼は新聞をテーブルに置き、その記事をおおざっぱながら書き写していた。コピーをしないのは自分が分かりやすいようにしているためだろう。
問題はその書き写している記事。スポーツ面や経済面ではない。彼が書き写しているのは、僕が調べている例の高校生殺害事件に関したのものだ。
でも一体なんで……?
「君、もしかしてこの事件に関して何か知ってるの?」
「え?」
僕の質問が唐突だったせいか、彼は一瞬驚いた。けれどもすぐにまじめな顔に戻る。
「……この被害者の蓮城ってやつ……、俺の友人だったんスよ。午前も彼の家を訪ねてましたし」
「そう、だったのか……」
それは軽はずみな質問をしてしまった。自分で自分を叱咤する。
「だから自分の手で真実を知りたいんスよ」
彼の顔からは、それに対する固い決意を感じた。
「……ごめん。軽率だったね」
「いえ! そんな事ないっスよ!」
彼はそう言ってまた新聞の方に顔を向けた。
……。
「はい、これ」
「へ?」
「ここ読んでみて」
そんな僕は彼に新聞を手渡す。もちろん昨日のではなくて、数年前のものだ。それを読んだ彼の表情は厳しくなる。
「これって……!」
「あまりに今回の事件に似すぎてないかい?」
彼は若干の間を置いてうなづいてくる。
「そう思います。でもなんで……?」
「それはこれから調べればいいさ」
はっきり言えば、犯行の手口から過去の三つと今回の事件に関連があることは間違いなさそうだ。でも同一犯だとして犯行がまた始まったんなら、調べてる余裕は少なそうだな……。それでもこれは大きな一歩だ。過去に起きた事件より今起きてる事件を調べればぐっと手がかりが多くなる。
僕は彼から昨日起きた事件について聞かせてもらった。彼の説明は結構整理されていたうえに詳しかった。
「じゃあ君はその蓮城くんと親しかったんだよね?」
「え、まあ、親しいといえばそうですね」
学友か何かか。なら……。
「なら君はそっちの方から調べてくれ。僕は過去の事件の方から調べておくから。一人で調べるより二人の方がいいだろうしね」
彼がどんな人かは僕は知らないし、もしかしたら僕1人で調べる方が早いかもしれない。でも、僕みたいに金目当てではない。彼にはこの事件の真相を知る権利がある。なら、彼には協力するべきだと思う。
「あの……、あなたは?」
「あ、僕の名前は黒桐幹也。探偵って思ってくれればいいかな」
実際は違うけど、橙子さんにいわせれば僕は立派な探偵としてやっていけるらしい。一般人だって名乗るよりはこう名乗った方がいいだろうと思ってそうした。
「探偵はな、漫画みたいに発想力なんぞでなく、地道な下調べが一番有効なんだ。それにとても優れている黒桐は間違いなく一流だよ」
とは橙子さんの弁。日本のドラマだと推理力が物を言うから現実とはかけ離れているとか。
「自分は一式七瀬です。蓮城との関係は友人兼クラスメイトです」
一式七瀬か、覚えておこう。
彼には僕が協力を申し出たのはとてつもなく意外だったようだ。
「でも本職の人に俺が協力したところで、何の役にもたたないんじゃあ……」
「そっちの生活に支障がない限り僕はかまわないよ。でも感情的にならないでくれよ」
「それは分かってるっスよ」
「ん、じゃあ……」
僕は彼に手をさしだす。もちろん、これは握手をするためだ。
少し戸惑うが、七瀬も手をさしだす。
「これからよろしく、七瀬くん」
「これからよろしくお願いします、黒桐さん」
僕らはがっちりと手を掴み、握手をしたのだった。
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「意外だったな……」
黒桐さんか……、俺以外にも事件を調べている人がいたなんて。しかも今回以外にも同じように犠牲者が出ていたなんて……。
『俺は見てはいけないもんを見てしまった』
とは蓮城の弁。通り魔の可能性を否定すると、その見てはいけないものを見たために殺されたのだろうか。
黒桐さんと話した事を思い出す。
「……というわけなんスよ」
俺は黒桐さんに自分の能力に関しては完全に伏せて、できるだけ真実を話した。彼はうなづきながらメモを取っている。後で整理するためだろうか。
「……そうか。どうやら通り魔の可能性はないみたいだね」
「へ?」
いきなりの否定に俺は戸惑った。
「それはまた何で……?」
「僕は過去の事件から追ってたから気づいたんだけど、この三人と君の友人、共通点は?」
「共通点?」
……黒桐さんから説明された3人の状況すら全く違うって言うのに、それに蓮城を合わせたところでややこしくなるだけだ。学校はおろか、学年すら違うんだから、共通点と言えば……なんだろ。
「彼らは同じ年に生まれたんだ。つまり、君と同級生なんだよ」
「同級生……」
そうか、いくら殺されたのが中学生だからって、起こったのは数年前。ならそうでもおかしくない。……なら、なんだ?
「中学生ばかりを殺してきた犯人が、いきなり高校生、しかも柔道の実力がある彼を襲ったんだ。ただの通り魔にしてはおかしくない?」
「……確かに」
また犯行を重ねるなら、また中学生を狙う方が理にかなっている。高校生にもなれば体格も大人に近づいてくるから、狙いにくくなるはずだ。
「だとしたら……」
「同学年を襲う事に何か意味があるんだと僕はおもうんだ。もしかしたらその『見てはいけないもの』は同学年が見やすいのかもしれないね」
俺と同学年に見やすい『見てはいけないもの』……一体それは何だ? 見当もつかない。
「だから調べる時、君も『見てはいけないもの』を見ないようにしてくれよ」
「それは分かってるっスよ。俺だってまだ死にたくないですから」
と言っても、相手は柔道の達人である蓮城を殺した相手だ。いざはちあわせしたら俺が生き残る保証なんてどこにもない。立ち向かうにしても逃げるにしても、相手がどんな奴なのか分からないのに覚悟のしようがない。
黒桐さんは新聞を整理しながら続ける。
「それじゃあ三日後にもう一回話し合おうか。それまでにメドがつくといいね」
「そうすね」
「七瀬くんはここが地元?」
「あ、俺は電車でここに来ましたから……」
と言って俺は最寄り駅を教えておく。黒桐さんは近いなと驚いていた。
「なら三日後の……午後四時ぐらいにアーネンエルベでいいかな?」
「あ、かまわないです。むしろ俺にとっても地元はありがたいですから」
俺は黒桐さんの協力の申し出に少しありがたく思いながら図書館を後にした。
んで、その後は本屋やゲーセンで時間をつぶしておいた。蓮城の周りに関しては明日調べるとして、とにかく事件現場をサイコメトリーすれば一瞬で決着がつく。事件から二日か……、警察がまだ調査を行なっているだろうけど、その周りをすればある程度ぐらいは分かるだろう。
と言うわけで現在時刻は午後九時。短気な我ながらよくぞここまで時間をつぶせたものだ。俺は事件現場へと足を進める事にした。
なるほど、確かに近づいていくにしたがって人通りが少なくなっていく。事件現場は案の定というか、警官が待ち構えていて入ることはできない。……だからといって犯人はテレポートなんて魔法の世界みたいな事はまずしてこないだろうから、現場に蓮城に続いて入った奴が必ずいるはずだ。
「なら周りからメトりますか」
俺はヒモ靴のヒモを直すフリをしながら、道路に対してサイコメトリーを開始する。
「……これは?」
膨大な量から必要な部分だけを抜き取ってみるけど、どうやらこっちの方は使われなかったようだ。
場所を変えてもう一度開始。と、見えてきたぞ……。
まず蓮城が後ろを振り返りながら走っていった。ものすごい形相で、まるで悪夢に追いかけられているようだ。
そして、現れるソイツ。後ろを振り返った蓮城とは違って前を見るそいつの顔は逆光で見えない。メトった位置が悪かったな……。
そいつは歩いているようで、実際はとてつもなく速い。なんでまるでホラー映画の一場面みたいだった。地面からの視点だから断言はできないけど、そいつは屈強な男ではない事だけは間違いない。……もしかしたら俺なんかより背が低い上にきゃしゃじゃないか?
「うーん……」
何にしてもここでも位置が悪い。数メートル移動すれば街灯からの逆光もないから顔がばっちり分かるはず――。
「何してるの?」
「靴紐がゆるかったからそれを直してる」
う、警察の人か? まあ、それなら用意していた言い訳でも……。
「そうは見えないけど?」
「見えなくても現にそうなんだからしょうがないだろ」
「この事件現場で? 七瀬くん」
「……へ?」
俺は思わず顔をあげた。
そこにいたのは女子だった。その髪は肩の少ししたぐらい。小柄でとてもきゃしゃ、その顔はとてもかわいらしい。だというのになぜだろうか、今の彼女を思わず見て、かわいいと思えないのは。
そう、そこには円がいた。
つづく
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