「ねー、オードーって何?」
「はあ?」
いきなりのアルクェイドの質問に目をパチクリさせるレン、いや、正確には白レン。
何をいっているんだ?と言いたげな顔つきである。
昼の公園、ここでノラや首輪のついた猫とたわむれる白レンにいつの間に現れたアルクェイドが声をかけたのだった。
天気は快晴、風は穏やかにふいている。人通りは昼なのもあって多いが、多くは小さな子供とその母親だった。
ちなみに猫とたわむれる白レンに近寄ってくる子供もかなりの数にのぼっている。
「だからオードーって何?」
ひきつづき疑問を投げかけるアルクェイドに首をかしげた白レンは聞き返す事にした。
「…言ってる事がよく分からないんだけれども。」
「だからオードーはオードーよ。一体何なの?」
一体何の影響かしら…。そんな事を思いながら白レンは深いため息をつく。
「…逆に聞くけど何でいきなりそんな事を?その前に何でそもそも私に質問するの?」
白レンの質問は当然の疑問だっただろう。例え志貴が学校に行っていても、知り合いは大勢いるはずだから。
「だって志貴は学校に行ってるし、『学校には来るなよ』って言われたばっかだし…。
シエルの奴も妹も学校、レンは寝てるからってあのメイドに止められたし。だからあなたなんだけど。」
「…分かりやすい答えをどうも。」
シオンはどうしたのよ、との率直な感想はとりあえず置いとくことにする。
ちなみにこの話の最中でも猫はアルクの方にすり寄ってくる。
「で、きっかけなんだけど……。」
/昨日・志貴とのデート中
「ねーねー、志貴ー。映画見ようよー。」
「ええっ?俺のふところが厳しいことぐらいお前だって知ってるだろ?」
映画館の前でせがむアルクと渋る志貴。
何人かの通行人、とりわけ男性から殺意のこもった目で見られている理由はなんとなく見当がついていた。
「お金ぐらいわたしが用意するからさー。」
「ダメです。それは俺のプライドが許しません。」
「えー、けちー。」
アルクは頬をふくらませてそっぽ向いてしまう。
そのしぐさが妙にかわいいのが志貴の心を揺さぶり、その他の人物の殺気を増長させる。
志貴はやれやれといった感じで改めて映画の料金を見た。
今後の昼食代やその他の雑費を含めて、みれるような映画がやっているはずが…。
「…あれ?」
志貴は思わずめがねを外して目をこする。そして、もう一度じーっとそれを見る。
「…安い…。」
思わずそうつぶやいてしまった。志貴が目にしていた映画なら2度見ても余裕がありそうだ。
正直これで採算が取れるのか本当に心配だった。ちなみにタイトルは…『地球大決戦』。
「うあ安直。」
「で、どうなのよ志貴。」
その地球大決戦とにらめっこをしていた志貴にアルクは横から声をかける。
なぜか野次馬がアルクと志貴のまわりにできているのは気にしない事にする。
「見ようか。映画。」
「本当!さすがは志貴!」
…約二時間後、アルクはあくびをあげて映画館から出てきた。
「ふああ…。なーんか面白くなかったね今回の映画。志貴もそう思うでしょ?」
と聞いたアルクの顔がぎょっとなる。その志貴は人目を惜しまず涙を滝のように流していた。
「俺は…。」
「志貴、ちょっと…大丈夫?」
「俺は今猛烈に感動している!」
アルクはぐうの音も出ない。志貴は片方のこぶしを握りしめてなおも自分の世界に浸る。
「アルクェイド…。今回の映画がどんなものだったか…分かるか?」
「えーっと…。」
実は退屈で半分以上寝ていたが、何とか記憶のそこからひっぱりだし、整理整頓を開始する。
「世界制服をたくらむ『あんこくだいしょうぐん』に父親を殺された主人公が巨大ロボで立ち向かっていくやつ…だったっけ?」
「その通り!」
何とか提出できたアルクに対し、志貴は涙をなおも流しながら彼女の両手を握る。
「パンフを見る限りこれは自費製作だが…今どきこんなベタな設定で映画を作る勇気もすごいけどその巨大ロボは
まさにスーパー系ロボの王道を行ってるんだ!これを感動しなくて何をするんだ!」
ほぼ置いてきぼり状態のアルクは志貴の主張をただ呆然と聞いているだけだった。
なおも彼の主張は続く。
「視覚センサーのはずの目から光線を発し、空気抵抗はどこいったんだ状態の空中飛行、
ロケットパンチ、収納スペースを度外視した大量のミサイル!敵ロボットのチープさ
もすごいがここまで王道、男の…いや、漢の作品を見れるなんて俺は感動だ!」
/現在・公園
「…それで思いっきり志貴を『ばかーっ!』の一言ともに放った一撃で病院送りにして現在に至る…と?」
「そうよ!何よ志貴のやつ!わたしよりそのオードーの映画の方ばっか話してさ!そもそも…」
愚痴がそれから始まるが、白レンはほとんどそれを聞き流した。
志貴と女の子とのイザコザに巻き込まれるのはゴメンだ。
と言ってもこれ以上アルクェイドの愚痴を続けられるのも時間の無駄だ。
「で、王道の話をしてほしいんじゃなかったの?」
「…そうよ!で、そのオードーって何?」
アルクの変わり身の早さに呆れながらもどう説明しようか考える。
「…ベタを超越したもの…かしら。」
「べた?」
「漫画とかでよく書かれるようなやつよ。例えば重いものに潰されてペラペラになるとか
パンをかじった遅刻しそうな女の子と道端でぶつかって実は転校生でしたみたいな話とかそんな感じのやつ。」
「何それ。」
明らかにつまらなそうな顔で白レンに聞き返す。白レンにしてみればその答えは予想内だった。
「そんなのに志貴は感動するの?」
「典型的なパターン、それがこの頃ないからでしょ。少しひねったものしかやらないから。」
「?どういうことよ。」
「ベタすぎてつまらないからでしょ。でもそのベタが好きな人も多いわ。」
ひねったものの方がベタよりいいのではないのか、と言う意味で白レンは疑問詞を投げかけたつもりだったが、アルクェイドには別の意味で
伝わったらしい。
「…よく分からないわ。」
「勉強なさい。その時間はたっぷりあるでしょう?」
首をかしげるアルクにくっくと笑う白レン。
はたからみると年齢が離れた二人だが、全く違和感なく親しい仲に見える。
白レンは猫の頭をなでるが、次のアルクのセリフは彼女にとってはとんでもないものだった。
「じゃあ手伝ってよ。全く分からないんじゃ勉強のしがいもないわよ。」
「はあ?」
「ほら、行くわよ。」
「え、ちょっと!ねえ!」
白レンの服を掴んでものすごい力でひっぱりながらアルクはこう宣言する。
白レンの苦情はもちろんお構い無しだ。
猫たちは名残惜しそうに白レンのほうを見ている。白レンはとにかく猫と子供の方に手を振り、別れをつげた。
白レンを引きずりながら、アルクはこう宣言する。
「志貴のやつ、その王道ってやつでギャフンと言わせてやるんだから。」
/
「ははーん、それでわたしのところに来たんですねー。」
そう琥珀はさぞ面白そうに言う。
あの後すぐにやって来たのは遠野家、白レンが言うには「私よりずっと王道に詳しい」との事らしい。
もちろんアルクの訪問に驚いたのはたまたま早く帰ってきていた秋葉だった。
彼女は当然ながらいい顔をする
訳がなかったが、志貴目当てでない事とちゃんと正門から来たことでなんとか入るのを許したかんじだ。
「王道について知りたいだなんてけなげですねー。おそらく志貴さんのためですね。」
「まあそうよ。」
笑みを浮かべる琥珀と対照的に明らかにアルクは不機嫌だった。
もう今にも怒り出しそうな事は多分道端にいる人にもわかることだろう。
「それで、王道って何なのよ。早く教えなさい。」
「百聞は一見にしかずとも言いますし、まずはわたしの部屋にご案内しますね。」
琥珀の部屋、それだけでも不気味な印象を思わせると白レンは思ったが、口に出せば志貴みたいに地下行き
実験開始が決定になるだろうとここは黙っておく。
彼女の部屋に案内された二人の前に、山のようなビデオが用意された。
白レンはともかくアルクはそれに唖然とする。
「何よこれ。」
「ほとんどのパターンの王道が入っているVHSですけど。それとももしかしてアルクェイドさんはベータ派ですか?」
「DVD発売されてるのにベータ派って…。」
と白レンはつぶやくが、全く聞いていないようだ。
「ここで見てもかまいませんが、この屋敷内で志貴さんにはかかわらないでくださいね。秋葉様をあまり怒らせたくないので。」
「かまわないわ。志貴にはその王道ってやつでギャフンと言わせるまで会わないつもりだし。」
「あと消灯時間になったら電気は消させてもらうのでご自分の部屋にお持ち帰りください。後日返してくだされば結構ですので。」
「分かったわ。どうもありがとう琥珀。」
「どういたしまして。ですがその条件として…。」
琥珀はそっとアルクに近づき、耳打ちをする。
別に盗聴器が仕込んであるわけじゃないのに、仕かけるとしたら琥珀だし、と白レン。
「計画段階に入られましたらぜひわたしもアドバイザーとして…。」
「…いいわ。でもあくまでアドバイザーとしてよ。ギャフンと言わせるのはわたしなんだから。」
「そのへんは心得てますよー。」
不敵に笑う二人。
「…あなたもワルねー。」
「貴女様ほどでは…。」
この時点で悪党の王道をやっているアルクと琥珀。この二人を見ながら前途多難な予感がした白レンで
あった。
/
「これどういう事?」
「それは罪がばれたから口封じをかねた悪あがき。」
「何で罪を認めないのよ。」
「人の命をもてあそぶ重い罪を犯してる死徒がいたらあなた許すの?」
「いえ、有無を言わさず殺すわ。」
「だから殺されたくないから悪あがきするんでしょう?」
「それもそうね。」
「じゃあこれは?」
「この時代は権力が絶対だから従わなきゃいけないの!江戸時代にロア退治に私と行ったでしょう!」
「あれ?あなたじゃないでしょ?」
「黒レンと私は人生を共有してたんだから彼女の体験は私の体験よ。」
「柳生とかいったっけ?擬似直死の上にあの剣術があったからなかなか強かったわねー。」
「そうね。」
「…ならこれ何よ。」
「同級生にいじめられて助けを求めるってパターン。」
「でもマンネリでつまらないわ。」
「そのマンネリも重ねる事でそれ自体がギャグになる場合があるの。」
「ふーん。」
「…ねえ…。」
「何よ。今テレビ見てて忙しいんだけど。」
「私そろそろ出かけてもいいでしょう?私には関係ない話だし。」
「あらそう。シエル達に追われる毎日を過ごしたいんならいいけど。」
「汚いわよ!」
「奸智がさえてるって言いなさい。」
/
「やっと全部見終わったわ。」
「長かったわね…。」
心底疲れ果てた顔をして白レンは言い放つ。既にビデオを見始めて数日が経過しており、一睡もしていない。
アルクはまた余裕と言った感じだ。
「…で、王道は分かったの?」
と言うより分かってもらわなきゃ困る。そんな言い方で白レンは言い放つ。
一方のアルクェイドはさぞ真剣な顔つきで自論を展開する。
「時代劇の王道、ラブコメの王道、ロボットの王道。なかなか面白かったわ。」
「その三つ全部使えないでしょうけどね。」
「え?」
白レンがそっけなく言い放った言葉に引っかかりを感じたアルクが聞き返す。
「時代劇は私が志貴に夢を見せるのなら話は別だけど再現自体がまず無理。ラブコメは王道なくても志貴は平気だし、
ロボットのもメイドロボがいて意味をなさないじゃない。」
「ふっ、そんな誰もが再現可能で考えそうな王道には目もくれないわ。」
自信に満ちた声でアルクはきっぱりと白レンに告げた。
アルクェイドの目は何かたくらみを閃いた時の琥珀の目そっくりで、白レンは今にも逃げ出したくなる
衝動にかられた。
「でもこのビデオにわたしの求める王道はなさそうね。」
「ええっ!?」
「じゃあわたしは古本屋行ってくるからもう自由にしていいわよ。後でたっぷり働いてもらう事になるだろうし。」
茫然自失の白レンを置いて、アルクはとっととその場を後にした。
帰ってきたときはもう夕方。アルクの強引なさそいで琥珀と密会する。
「…というものになったわ。何とかできそう?」
「ええできますよー。それにしてもアルクェイドさん。随分と面白い発想をしますねー。」
「まあね。」
ふふっと笑う琥珀、にやっと笑うアルク。白レンは思わず逃げ出そうとするが、いち早くアルクが服を掴んでしまう。
そして……。
「「明日が実に楽しみ」です。」
関わらなきゃよかった。と白レンは後悔するが、今更後の祭りだった事は言うまでもなかった。
/
「……さま、……さま。」
「ん…。」
志貴はベッドの中でうなる。いつもの朝が来たようで、志貴はうっすらと目を開ける。
直死の魔眼で見える線などで目が重たくなる。
「……さま、お目覚めの時間です。」
「…ん、今起きるよ…。」
志貴は重たいまぶたをめいいっぱい開けて、そう言う。
魔眼封じのめがねをかけ、いつも通りの朝がやってきたと実感した。
天気も快晴で、心地よかった。
寝ぼけてはいたが、久々にいい一日を過ごせそうだと志貴は思う。
「……様、おはようございます。」
「おはよう翡翠。いつもありがとう。」
「いえ、これが私の仕事ですので。」
メイド服に身を包んだ同世代の女の子、翡翠はそうキッパリと言ってお辞儀をした。
志貴はとりあえず秋葉に怒られる前に身支度を整え、食事に出なくてはと思っていた。
「それでは勇者さま、女王さまがお待ちですので身支度が整いましたら王座の間におこしください。
その後に朝食をご用意いたしますので。」
「ん、分かったよ。すぐ行くよう秋葉に伝えておいてくれ。」
「かしこまりました。」
いつものように一礼して部屋から出ようとする。それを志貴は笑顔で見送り…。
「ん?」
とっかかりを覚える。
『たしか翡翠は…。』
彼女は自分の事を…。
「翡翠、ちょっと待ってくれ。」
「はい、何でしょうか。」
志貴の呼びかけに即座に反応を示す翡翠。その態度はいつものものと全く変わりがない。
「何で俺の事を『勇者さま』って…?それと女王さまって…誰?」
「…。」
なぜそんな事を聞くのか、そんな顔で志貴を見つめる翡翠。だが志貴にしてみればなぜそんな事を言うのかと言う方が疑問だった。
「女王ってまさか…。」
「はい、ついこの間王位を継がれたばかりの秋葉女王さまです。あなたさまは女王さまに召還された勇者さまではありませんか。」
「…は?」
志貴は間の抜けた声を発してしまう。何の事だかさっぱり理解できない。
「それでは失礼致します。」
呆然とする志貴をそのままに、そう言った翡翠は会話を打ち切り、部屋の外に出て行ってしまった。
「……一体何を言ってるんだ……?」
考えられるのは、@琥珀さんと共謀して俺を陥れようとしている。Aまたレンの仕業だ。B俺の頭がとうとういかれた。
「琥珀さんが何かをしでかすのはともかく、翡翠がそれに率先して協力するとは思えないんだよなー…。
だとしたらやっぱAか?」
Bの可能性は最後にと言う事で。
いずれにしても、ある程度は行動しないと始まりそうになかった。
「…とにかく身支度をととのえないと…。」
そう言って志貴はクローゼットを開けて…絶句した。
中にあるのはいつもの制服や普段着ではなく…明らかにRPGふうの冒険服しかない。
しばし目をつぶって頭の中を整理する。
「明らかに嫌がらせだよなぁ…。」
でもパジャマのままでいるわけにもいかないので、一番マシな服を着て、部屋から出る。そして再び絶句した。
部屋の中とは違い、廊下が広く、幾人もの侍女が忙しそうに右へ左へ動いている。
そして、窓の外から見えるのは明らかに遠野の屋敷ではなく、テレビでしか見たことのないような、いわゆる王宮であった。
「な…何これ…?」
「勇者さま、お待ちしておりました。」
ただ唖然とする志貴に対して、そう言い一礼したのは部屋の外でずーっと待機をしていたらしい翡翠だった。
彼女だけがいつものように淡々と言葉を発する。
「それでは女王さまがお待ちです。参りましょう。」
「ひ…翡翠…。」
「はい、何でしょうか?」
「なんかのギャグ?」
「?」
翡翠はまゆをひそめた。聞かない方がよかったかなーと志貴。
「何の事でしょうか。おっしゃられている意味がよく分かりませんが。」
「いや、いい…。」
@の可能性はうすくなってきたな、と志貴は思いながら頭をかかえた。
そして志貴が通されたのは、まさに王座の間というにふさわしい豪華絢爛なものだった。
床は大理石とか大勢の屈強な兵士とかところどころにある巨大なレリーフとか絵画はどうだってよかった。
それより、純白の、中世を題材とした映画でしか見られないような礼服を着た秋葉のほうに思わず目が行ってしまう。
詳しくはよく分からなかったが、豪奢で華麗である事には否定の入れようもなかった。
「よく来ていただきました。勇者志貴。」
「え!?あ…はあ…。」
秋葉の口調は全くいつもと同じだが、いつも以上に威厳が感じられる。
いきなり話題をふられて思わず間の抜けた返事をする。
そんな志貴に不快を示す人物が一人。
「女王陛下の御前ですよ勇者志貴。」
「結構です。近衛隊長シオン、そのような事を言っている場合ではないのですから。」
「…了解しました。」
秋葉の横に立っている男物の軍服に身を包んだシオンがそう答えた。
翡翠はともかく秋葉やシオンまでこのヘンテコな世界に順応しているのを見ると、@の可能性は完全に消えた。
「もう勇者志貴、義理ではありますが私の兄さんなんですからそんな間の抜けた顔をしないでくださりませんか?」
「え?ああ…ごめん。」
この世界でも妹設定は変わらず…か…。それと、ほとんど秋葉に違和感がない。
このままではどうしようもないので、とりあえず彼女らのペースに巻き込まれる事に。レンを見つけ出すのはそれからだ。
「では兄さん…、いえ、勇者志貴。あなたを召還したのはしたのは他でもありません。魔王を退治してもらうためです。」
「……はあ?」
今度こそアゴが外れんばかりに口を開けた志貴はそういうのが精一杯だった。
/
「魔王によってこの世界をつかさどる女神がさらわれてから怪物が世界を脅かすようになりました。
女神がいないこの世界はもはや魔王の手に落ちる道しか残されていないでしょう。
兄であるあなたにこう言うのは心苦しいのですが、どうか魔王を倒してはくれないでしょうか。」
「…はあ…。」
なんか本格的に典型的な、でもこの頃ない、RPGになってきたぞ。
「もちろんそのための費用と品物はご用意いたしました。翡翠。」
「はい、かしこまりました。」
秋葉は目だけで翡翠に命令すると、彼女は志貴の前に典型的な宝物箱を用意する。
「魔王軍との戦いで疲弊したわが国が出せるものはそれぐらいしか…。」
「…まあいいけど。」
志貴は苦笑いをしながら宝物箱を開け…目が点になった。
木の棒が一本と10円玉が2枚。
「あのー秋葉…じゃなかった…女王さま…。」
「なんでしょうか?」
「これは一体なんですか…?」
「ですから支給品です。」
支給品。今どきのRPGならアイアンソードぐらいはもってるぞ。
「だって魔王退治に行かせるんでしょう!?だったらシオンの持ってるような鉄のやりと鉄のたてぐらい…!」
「無理です。」
「でも…!」
「無理です。」
秋葉はそう断言する。シオンどころではなく、他の一般兵士は鉄のけん、鉄のよろいを装備しており、
今の自分より明らかにいい。
ここまで典型的でなくてもいいのにと志貴は思ったが、それを言っても仕方がない。
痛くなってくる頭をかかえて志貴はかろうじてこうつぶやく。
「……俺1人、これだけで旅をするのか…。」
「あ、その点はご心配いりません。旅のお供はこちらでご用意させていただきました。」
秋葉はわずかに手を上げ、一般兵士に扉を開けさせる。おもわず案内された三人を見てふいてしまう志貴。
「ご紹介しますね。機動戦士メカヒスイ、氷紋術士レン、魔具使い琥珀です。いずれもわが国で
優秀な人材ですからきっとお役に立てるでしょう。」
メカヒスイは普段と全く変わっていない、メイド服だ。琥珀さんはマジカルアンバーの姿をしていて、魔女を連想させる。
そしてレン……いや、白レン。
「レン…どうしたんだ一体…。」
「言わないで志貴。」
顔を真っ赤にして白レンはそっぽ向いてしまった。大き目の三角帽子は魔法使いのお約束、だが、服はマントとレオタード?ぐらいの露出である。
いずれも水色と白に統一されていた。それが彼女のパーソナルカラーかと思ったりする。
「それではご健闘をお祈りいたしますわ。勇者志貴。」
そう言って秋葉は志貴にほほえんだ。志貴はひきつった顔を向ける以外できなかった。
/
「どういう事ですか琥珀さん!レン!」
食事も終わり、城から出た志貴は大声で二人に向かって主張する。
城門を守る兵士や城下町の人々がギョッとするが、このさい無視する。
「一体この世界は何なんですか!」
問い詰められる白レンは顔を下に向け、琥珀は陽気に杖を振る。メカヒスイの表情は変わらない。
「何なんですかって…志貴さん、典型的な王道を行くRPGはお嫌いですか?」
「で・す・か・ら、なんでその典型的RPGの世界に俺やあなたがいるんですか!」
「ごめんなさい志貴。でも……。」
あいかわらず目を合わせようとしない白レンがそう会話に割り込む。
「この世界は私とアルクェイドが作り出した世界なの。」
「…は?」
申し訳なさげに白レンがつぶやくが、志貴は何を言っていいのか分からない。
「彼女の空想具現化と私のレンとタタリの能力を応用して世界をつくり、琥珀がシナリオと配役を考えたの。」
「…なんでアルクェイドがそんな事を…。」
「それはですねー志貴さん。いえ、この場合勇者さまとお呼びするべきでしょうか。」
琥珀がさぞ面白そうに言う。
「アルクェイドさんが王道であなたの心を動かしたいんだそうですよー。けなげですよねー。」
「じゃあこれって現実世界!?」
「はい、あの悪夢の別パターン再現と思っていただけたらいいかと。」
「じゃあこの世界で死んだら…!」
「ドラク○なんかと違って死亡は死亡ですから。ロマサ○やった事はおありでしょう?戦闘不能と死亡の違い。」
「いや…そういう問題じゃなくて…。」
「大丈夫ですよ、いきなり街の外に出たらティルトウェイト一発で殺されるなんて事はないですから。ゲームバランスには苦心しました。」
あのコンピューターRPG元祖のウィ○ードリィの最強魔法かーと他人事のように頭に浮かぶ志貴。
「ってだから俺が言いたいのはそれじゃなくて……!」
「音楽ですか?入れてもよかったのですが意見が割れたので却下しました。わたしはイー○を押したのですが…。」
「違いますよ!」
いや、確かに音楽もバランスも大事ではあったが、志貴の聞きたいのはそれではない。
「音楽に関してはどうでもいいですから!この世界からの脱出方法を教えてくださいよ!」
「え?脱出方法ですかー?」
切羽詰った言い方をする志貴に対し、あくまで琥珀はマイペースをつらぬく。
「これはアルクェイドさんとレンさんが構成した世界なので彼女たちを倒すか、エンディングを見るかしかありませんよー。」
「エ…エンディングーッ!?」
「大丈夫ですよ。今どきのやつと違ってこれはストーリーが短いですから半日もあれば余裕でクリアできますって。」
「……っ!」
なおも不満を言おうと思ったが、アルクェイドをどうにかしない限り脱出は不可能そうだ。ならばしばらくこのRPGをプレイするしかない。
…と…。
「秋葉たちもそれに了解済みなのか…?」
「いえ、秋葉さま方が了承してくれるとは思いませんでしたので、翡翠ちゃんに頼んで……。」
「…皆まで言わなくていいです。」
志貴は頭を抱え込みながらしゃがむ。通行人が志貴たちの周りでがやがやとさわぎだした。
「じゃあこの町人たちは…?」
「ノンプレイヤーキャラクターです。TRPGはごぞんじないですか?」
「TRPG?」
「テーブルロールプレイングゲームです。テレビやパソコンで出てくる前はすごろくみたいにテーブルでRPGをプレイしたんですよ。
今回は日常会話程度ならできるよう高度にプログラミングしました。」
いらないところまでこだわるな…。
「ちなみにモンスターはボスクラス以外は全てノンプレキャラですから。比較的ワンパターンな攻撃しかしませんから安心してください。」
「…そう。ならとっとと始めようか。」
そう言って志貴はとっとと街の外へと出ようとする。が、琥珀は志貴の肩を掴み、志貴を引き戻す。
「あ、勇者さまいけませんよ。」
「その勇者さまはやめてください琥珀さん。」
「街での情報収集はRPGの鉄則ですよ。」
「情報収集って…。」
志貴はあたりを見渡した。ざっとまわりにいるだけで100人は下らない。
「この中からですかーっ!?」
「さあがんばりましょう志貴さん。」
志貴と白レンは深くため息をついた。
プレイ時間にしておよそ3分、情報収集は終わった。
「……こんなに人数がいるのに随分と早く終わったな…。」
「町人は少なくが昔のモットーですから。さあ行きましょうよ。」
もはや完全に琥珀さんのペースで進んでるなと心の底で思いながらも、志貴は先頭で街の外に出る。
と、何もなかったところにいきなり何かが現れる。
人間ではない事だけはたしかだ。
「志貴、あなた出現率数パーセントのフィールドで街から一歩出ただけでエンカウントを普通する?」
「ほっといてくれ。」
さめた口調で言う白レンにそう言って敵の方を見る。敵は……。
「…レン…。」
「何よ。」
「こいつら誰だ?」
「RPGのお決まり初期出現モンスターのスライムでしょう?」
「それは分かるけど…。」
デロデロの液体だか固体だか分からない物質で出来た敵。
○ラクエでスライムが出てきた時は往年のRPGファンからこれはスライムでないとか言われたそうだ。
昔はスライムはおぞましいモンスターだったのだ。日本語に直訳するとヘドロだし。
そんな事が頭によぎるが、この際それはどうでも良かった。
「ちなみに聞いてみるけど…こいつの原料って…何?」
「ネロの一部分。」
「そんなのを使わないでくれよっ!」
スライムは明らかに黒ずんでいた。奇声を発し、志貴たちを威嚇する。
「…とにかく戦闘開始か、琥珀さんたち、何か技はあるの?」
「ダメですよ勇者さま。」
「え?」
いきなり言い出す琥珀。ちらっと白レンの方に目配せをする。
白レンはそれを見たのか見なかったのか、そっぽむいてしまった。
「このゲームは独自システム、忠誠度がありまして、仲間が勇者の命令を聞くかどうかはそのパラメーターにかかってるんですけど…。」
目の錯覚か、志貴の目に全員のステータスが見える。よくみると全員の忠誠度は…。
「ゼロ!?」
「ですから全員何もできないんですよねー。がんばってください。」
こはくはぼうぎょしている!レンはぼうぎょしている!メカヒスイはぼうぎょしている!
「何ですかそれはーっ!」
大声で怒鳴る志貴の言い分は正しかったが、琥珀は全く気にしていなかった。
「仲間との親密な関係をあらわしたくてそうしましたが?」
「……っ!」
志貴は先ほど売り払った木の棒の金と20円(この世界ではGらしい)でいつの間にか街の武器屋に置かれていたので
買い戻した七夜のナイフをとり出す。
「なら全員俺の後ろに下がっててくれ。俺1人でなんとかするから。」
「志貴…。」
「レンも、ほら。」
敵を見据えながら志貴はメガネを外そうとして…、手に引っかかるだけで一向に取れる気配がない。
「あれ…?メガネが…?」
「アルクェイドからの伝言だけど…。」
「おかしいな、メガネが取れない。」
スーファミ時代のF○から始まったリアルタイムシステムでないのか分からないが、一向に敵は動く気配がない。
白レンの言う事も聞こえていたが、志貴はこの際無視する。もどかしそうにメガネをとろうとする。
言うのをやめようかとも白レンは思ったが、言う事にした。
「「呪いのアイテムもお約束よ♪」だって。」
「なんだそれはーっ!」
呪いのアイテム。解呪魔法か教会でのお祈り以外で装備から外すことができないもの。
「それはいたって簡単ですよ勇者さま。」
狼狽する志貴をよそに会話を受け継いだ琥珀は指を横に振る。
「そんな○F6で言う『バニシュ』と『デス』を組み合わせたような直死などやられてはゲームが
成り立ちませんからねー。」
「ま…マジですか…?」
呆然自失とする志貴にスライムが襲いかかった。
/
「このダンジョン暗いな…。」
「あら、それは当然ですよ。炭鉱みたいに照明のある洞窟が珍しい方なんですから。」
「え…?それってつまり…。」
「はい、たいまつが必要ですね。」
「それを早く言ってくれ。」
「ってこのダンジョンこれだけか!?」
「え?こういった無駄なダンジョンがあってもいいかなーって。」
「もういいですよ!レン、脱出用アイテム買っておいてくれたよな。」
「脱出用アイテム?そんな非現実的なアイテムがあるわけないじゃない。」
「…は?」
「私達の中に魔術師がいれば可能かもしれないけどあくまで現実をベースにしたRPGなんですから。
魔法ならともかく脱出用アイテムは存在しないわ。」
「何ですかそれはーっ!」
「……琥珀さん……。」
「はい、何でしょうか?」
「何でモンスターって人間の通貨持ってるんですかね。」
「さあ、わたしのあずかり知る事でない事は確かですけども。」
「……。」
「何よ志貴この服!」
「だって今の予算で買えて防御力も魔法防御も高くなるのはそれしか…。」
「さっきより薄くなってるじゃない!露出度もあがってるし!」
「えらい魔法使いがそういった魔法をかけてるって設定じゃないかな…。」
「だからってこれは…。」
「あら、随分と似合ってますよレンさん。」
「…そういう貴女が着ているのは何よ。」
「あら、わたしは魔具使い、つまり接近戦も可能ですから軽鎧も装備可能なんですよ。」
「……っ!」
/
「ダンジョンクリア!魔王殿まであと少しかな?」
中ボス風のモンスターを倒した志貴はそう言う。ちなみに目的は魔王のいる城、魔王殿に行くためのアイテムをそろえる事だった。
ちなみに残り1つで魔王殿に行ける所までたどり着いている。
「それで、残り1つがどこにあるかなんだけど…。」
「それならさっきの町で情報は得ているわ。」
「え?本当?」
「秋葉が持ってるんじゃないかって。何でも国宝のものとからしいけど。」
と白レンは言う。
ちなみに今の装備はちゃんとしたローブになっている。琥珀の反対もあったが、強引に押し通したものだ。
「ふーん…。でも…。」
「でも?」
「ここからだと遠くない?」
「あ、その点は大丈夫ですよー。」
いきなり琥珀はそう言って二人の腕を引っ張る。その間にもダンジョン内に敵がぞくぞく現れたが、
今のレベルでは敵ではなかった。
来たのは先ほど寄った王国第二の都市、そこに巨大な飛行船があった。
全長およそ三百メートル、明らかに現代の飛行機とは違ったフォルムで、まさにRPG上でしかありえないものだった。
だが、それは白で統一され、美しささえ感じる。
「こ…これは…?」
志貴がそうつぶやいた。船の圧倒的なスケールに驚かされている。
「王国の誇る飛行船『ブリュンヒルデ』ですよー。勇者さまが次々と魔王軍を倒したおかげで復興したんですよ。」
「よ…よくもまあこんなものまで具現化したもんだなぁ…。」
「そこの所は細部までこだわりましたから。ゲーム化して売ればミリオンセラー間違いなしですよー。」
話半分だなと思いつつ、ただ志貴はその船に見とれていた。
「さ、女王さまもきっとお待ちかねでしょうから、早く帰りましょう。」
「そうですね。」
飛行船の中はいたって質素なもので、軍用から転換された事は明白であったが、それなりに行き届いていた。
王国首都まではたった数十秒との事(この辺もRPGを忠実に再現)だったが…。
「…着かないな…。」
船は空をまだ飛んでいた。優雅とまではいかないが、快適な空の旅を満喫する。
白レンは丸くなって眠っており、メカヒスイは自身のメンテナンスをしている。志貴は琥珀とともに紅茶を飲んでいた。
「琥珀さん…。」
「なんでしょうか?」
「これって典型的なイベント発生パターンじゃ…。」
そういい終わらないうちに爆発音が響き渡る。あわてて外を見ると、飛行タイプのモンスターが船を取り囲んでいた。
志貴は目が点になる。
「…マジですか?」
「マジですよ。」
少しもたたないうちに従業員がやってきて、全員食堂に集まるよう言われたと言う。
仕方なく4人は食堂に向かい…志貴はそこにいた人物を見て唖然としてしまう。いたのは……。
「ゆ…弓塚さん…?」
「ようやく来たようね。勇者志貴くん。」
さっちんは志貴を見るなりそう言い出す。
「魔王さまに逆らおうなんて許せないんだから。」
「……琥珀さん……。」
志貴は頭をかかえて頭痛をこらえながら琥珀に耳打ちする。
「弓塚さんまでキャスティングしてたなんて聞いてませんよ。」
「言ってませんから当然です。」
「……。」
もはや何もいうまい。言っても無駄っぽいし。
「それで弓塚さん、何が目的なんだ?」
「もちろん、勇者志貴くんの妨害よ!そしてあわよくば…ふふふ…。」
…まさかもう1人のレンや先輩まで関わってないだろうな…。
そう思いつつ暗い気分を起こしてナイフをかまえる志貴だった。
/
「ご苦労でした、勇者志貴。貴方の活躍はここにいる私にも聞こえてくるほどです。」
「ありがとう秋葉。」
いつもの様子で話す志貴。先ほど昏倒させたさっちんを城の兵士に預けたばかりで、少し傷がついている。
女王に対する発言ではなかったが、それを追求するものはいなかった。
「琥珀もレンもご苦労でした。さぞかし大変な旅だったと聞いています。」
「ありがとうございます。」
琥珀はうやうやしく一礼する。白レンはそっぽむいたままだ。
「特にメカヒスイ、あなたには迷惑をかけたわね。」
「イイエ、当然ノ事ヲシタマデデス。」
メカヒスイはロボとは思えない優雅さでお辞儀をした。
が、志貴には今の秋葉の言葉がひっかかる。
…迷惑…?
が、その疑問をはらしたのはその秋葉だった。
「勇者志貴の監視、ご苦労様です。」
「なっ!」
志貴はその言葉に絶句する。琥珀と白レンに目線を移すが、二人ともそっぽむいたままだ。
琥珀にいたっては口笛まで吹いている。
なおも秋葉の言葉は穏やかに続く。
「ですがそれももう必要ありません。なぜなら…。」
その途端、シオンが兵を引き連れて志貴たちを取り囲んでしまう。そして、槍を志貴たちのほうに向ける。
「どういうことですか女王さま!」
しらじらしく琥珀がそう秋葉に言う。が、何気にうまく、女優になってもおかしくないほどだ。
「ふっ、簡単に言えば、既に私も魔王さまのご加護にある…とでも言うべきかしら。」
「「!!」」
そう言って細く笑う女王秋葉。シオンも冷たい目を3人にむける。
志貴は思わぬ展開に驚き、琥珀はそれに便乗するが、今度は明らかにわざとらしい。
「まさかあなたがここまでやるとは思いませんでした。ですがそれも終いです。」
「待ってくれ秋葉、話を…。」
「問答無用です、やりなさい!」
兵士は一斉に槍に力を入れ、志貴たちの旅は終わりを告げる……!
とナレーションが入りそうだなと志貴が思ったとき、彼らをかばったのはなんとメカヒスイだった。
彼女は城の兵士を次々と倒していく。志貴達も驚いている兵士を倒し、逃げ道を確保しようとする。
「メカヒスイ!秋葉のスパイだったんじゃあ…。」
「私ノ任務ハ勇者志貴サマヲ守ル事デス。」
このセリフに思わず感動してしまう志貴と琥珀。琥珀は感動のあまり涙を流しており、彼女のシナリオと言う
事を忘れさせるものだった。
が、それを黙って見ているほど秋葉は甘くはなかった。
「…メカヒスイ…。裏切るのね…。ならば…。」
秋葉はそんなメカヒスイ達をみていて指を鳴らす。すると、音をたてずに現れたのは翡翠だった。
「幻想術士翡翠、彼らを始末なさい。」
「かしこまりました女王さま。」
翡翠の腕はぐーるぐーるとまわりだし、じりじりとメカヒスイの方に近づいていく。
メカヒスイは足裏の機械で翡翠にむかって突進する。手に持っているのは神殺し、チェーンソーだ。
「邪魔ハ、サセナイ。」
「残念ですがお引取りを。」
互いの攻撃はほぼ同時だった。速度、タイミング、だが技の性質は翡翠の方が上だった。
「メカヒスイ!」
メカヒスイは若干の火花を上げてその場にくずれさる。それを気にもせず志貴はメカヒスイを抱きかかえた。
「メカヒスイ!しっかりしろ!」
「志貴サマ…オ役ニタテナクテ申シ訳ゴザイマセンデシタ…。」
「メカヒスイ!しっかりしてくれよ…!」
「ゴ健闘ヲ…オ…祈リ…申シ上…ゲ…マ……ス……。」
「っっ!!」
メカヒスイの身体から力が抜け、全身の重みが志貴の腕にかかる。
白レンは志貴に声をかけようとしたが、彼の表情を見て思いとどまる。琥珀も無言で立ち尽くすだけだった。
「次は勇者志貴たちを。シオン、援護なさい。」
「了解しました。」
そんな3人に一定の距離をおいて立つシオンと翡翠。志貴はただ呆然としかしない。
襲いかかる二人に翡翠と白レンが対応するが、敵は強力だった。
「志貴!何をしているの!このままじゃ私たち全滅よ!」
「そうです勇者さま!今あなたが立ち上がらないで誰が立ち上がるのです!」
白レンと琥珀は志貴にどなるが、彼は反応しない。
「このままメカヒスイちゃんの行為を無駄にするんですか!」
「彼女のためにも今戦わなければいけないわ!」
シオンと翡翠のコンビネーションにとうとう琥珀と白レンは壁際に追いつめられる。今からでは何をやっても遅すぎる。
「やめろ。」
その時、志貴…いや、勇者はメカヒスイを床にねかせ、ゆっくりと立ち上がった。
「勇者志貴、ようやく我々と戦う事を決心しましたか。ですがそれも無駄な事です。」
「勇者志貴さま、お覚悟を。」
シオンと翡翠は白レンたちを無視して志貴の方に向く。そして、明らかに必殺技の動作を始めた。
「ガンバレル……。」
「暗黒翡翠流……。」
城が二人のタメだけで揺れ動くが、志貴は全く動こうとしない。
「逃げてくださいまし勇者さま!」
「大丈夫だ琥珀さん。すぐにすむ。」
悲痛な声を上げる琥珀だったが、志貴はナイフをゆっくりとかまえる。そして、敵二人は志貴に向かって必殺技を放った!
「フルオープンッ!」
「御奉仕推奨波ーっ!」
2人の志貴を殺そうとする一撃が放たれる…!
それはまさに一瞬の出来事だった。
まるで柱や天井を床のようにして志貴は移動し、二人の技をかわしつつふところに接近、一撃で二人を倒してみせる。
音をたてて崩れ去るシオンと翡翠。しかも一切の怪我も負わせていない。
それを見て手をわなわなと振るわせる秋葉。
「ええいっ!二人とも情けない!かくなる上は私自らがあなた方を…!」
そう言うと秋葉は勢いよく立ち上がり、髪を朱色に染めていく。
瞳にやどるのは、明らかに殺気だ。
「よくもやってくださいましたね勇者志貴!ですが…。」
「黙れ。」
が、志貴は秋葉の文句をその一言で黙らせた。普段温厚な彼が秋葉達には見せていない、明らかに殺意のこもった目で彼女を見据える。
「秋葉。お前は……。」
そして志貴は眼鏡に手をかけ、簡単にそれを外す。
「お前はこの俺を怒らせた。」
秋葉が志貴にやられるまでそう時間はかからなかった。
/
「よかったですねー勇者さま。」
「言わないでくださいよー琥珀さん。」
志貴ははずかしそうに頭をかく。
「もう世界中の女性があなたのとりこになってしまうかもしれないじゃないですか。かっこよかったですよー。」
「……。」
志貴には返す言葉もなく、顔を真っ赤にするだけだった。二人の会話を聞く白レン、そしてメカヒスイ。
「ボディーを総入れ替えするハメにはなりましたが、ハードウェアが無事でよかったですねー。」
「いや、あれはホント頭にきてさ…。」
「あくまでこれはゲームなんですからそう簡単に人を殺しはしませんよー。」
琥珀はコロコロと笑い声をあげた。
今彼らがいる場所は魔王殿、ようやくのラストダンジョンであった。何匹も現れるモンスターを倒し、進んでいく。
ちなみに勇者として真の覚醒を果たしたと言うことで志貴は眼鏡を外せるようになったようだ。
「にしても秋葉達が中ボスだったとは驚いたな。」
「身内が裏切るのも仲間がそれをかばうのも王道ですから。」
「…残るは先輩ともう1人のレンぐらいか…。」
有彦も呼んであるのかと白レンにこの前聞いたら答えはNOだった。何でも呼んでも意味ないのだそうだが、
なぜそうなのかはよく分からなかった。
「魔王はどっちなんだ?それとも男とか…。」
その時、奥の方から金属音などが響き渡る。明らかに戦闘音だった。志貴たちは互いにうなずき、そちらの方に向かう。
そこで見たのは、レンと七夜、四季の戦いであった。
周りには数多のモンスターの死体が転がっている。
この二人がモンスターごときに負けるわけはなかったが、モンスターの死体の数から見るとざっと数百匹にはなっていた。
レンの格好は普段なら絶対に見ることのないような妖艶なる格好(黒のラバーで統一)をしており、まさに悪の女幹部といった感じだ。
「きゃーっ!レンさんやっぱり似合ってますー!」
「それよりなんであいつらが…?」
「イベントでやられる人達も必要ですよ。ああっ!やっぱり小悪魔的なレンさんもかわいすぎます!」
小声で、だがはっきりと聞こえる声で琥珀は歓喜の声をあげる。志貴はジト目で翡翠を睨んだ。
「琥珀さん…さっきから思ってたんですが…。」
「はいなんでしょうかー?」
「衣装考えたの絶対琥珀さんでしょ。」
だって今着てる白レンの装備、最強の防御を誇るのは露出度がめちゃ高く、肌に密着したスーツだった。
一見すると水着に見えなくもない。それにマントと帽子をつけているだけだ。
自分が装備しているのはどこぞの聖闘士の鎧ですかぐらいの豪華絢爛なものだったし、メカヒスイのは結婚式で着るような純白のドレスだし。
そして琥珀が装備していたのは闇のローブとかいって全く肌の露出がないものだった。
「違いますか?」
「あ、戦いが終わりそうですよ勇者さま。」
明らかな話題そらしだったが、言っている事は正しかった。レンによって二人のシキはその場で倒されている。
4人はその場にかけよった。四季はうめき声をあげて痛がる。
「四季、何でこんな事に…。」
「…オレの秋葉を操っていた魔王が許せなくて暗殺者のこいつをやとって単身乗り込んだんだが…ここで終わりのようだな…。」
こいつも参加のクチかいとは言えず、志貴は七夜にも声をかける。
「お前も何で…。」
「…人外のやつらを切り刻めると聞いてな…だが流石に疲れた…。」
「志貴…あとは頼んだぜ…。」
ガクッと二人は気絶する。志貴は二人をその場に寝かせ、立ち上がった。
レンは普段なら決して見せない不敵な笑いを浮かべ、モンスターに命令をする。
モンスターが一斉に志貴たちに襲いかかった。
/
魔王の間は薄暗かったが、ステンドグラスからは光が差し込んでおり、中は見えなくもない。秋葉の王座があった所よりも広く、静かだった。
あれから次々と現れる強敵たち、志貴たちの持ってきた回復アイテム(多分琥珀の手作り)を使い切ってしまい、疲労もピークに達していた。
「よくここまできましたね、勇者志貴。」
その空間の真ん中にある王座に座っていた人物がそうつぶやく。座っている人物は…。
「シエル先輩…。」
「まさかわたしの部下がことごとくやられるとは思いもしませんでしたよ。」
志貴は視線を下におろしながら予想通りの展開に少し呆れる。琥珀はそんな志貴の体をつっついた。
「何ですか?」
「人の話を聞くときは相手の目線を見なきゃ失礼ですよ。」
「確信犯でしょ明らかな。」
そう、下に視線を向けるのには理由があった。まさに魔王が座りそうなイス、それに威圧感をただよわせながら座るシエル。
まあそれはいい。
だが、彼女の衣装は以前悪夢の中で見たような……。
「何でマント一枚なんですか!おかしいでしょ明らかに!」
思いっきりあのロアシエルの格好顔負けだし。
志貴がシエルから目線をそらしていると、琥珀はさぞ面白いと笑みを浮かべる。
「細かい事は気にしないでください。ほら、そろそろセリフが核心部分つきますよ。」
「……。」
この悪夢が終わったら絶対に逃げよう、そう思いながら意識をシエルの方に向ける。どうやらまだ話は終わっていないようだ。
「そう、わたしは今こそ神にかわってこの世界を制するのです!見なさい!」
そう言って手を上げると、なにやら魔法陣の書かれた床が光りだす。
そこにいたのは(予想はあらかたついていたが)アルクェイドであった。
衣装はいつかの夢でみた朱い月のものだったが、表情は明らかにアルクェイドのものだった。
アルクェイドはさぞ悲しそうに志貴たちのほうを見つめる。
「勇者志貴!ここまで来てくれたのですね!」
女神アルクは迫真の演技で志貴にそう語りかける。返す言葉もない志貴。
「世界の女神は今わたしの手中にあります!ならばわたしを止めるものはもはやあなた方しかいないでしょう。そこでですが…。」
少し間をおいてシエルはこう言った。最も典型的のようだが実際はそんなに使われていないフレーズ、
「勇者志貴、わたしの部下になりなさい。世界の半分をさずけましょう。」
「断る。」
志貴は即答した。ほう、と思わず声を漏らす琥珀と白レン。
「お前のばかげた計画のおかげで一体何人もの人が犠牲になったと思ってるんだ。」
そう言って志貴はナイフをかまえた。実際の所、主犯であるアルクに言ったのではないかと
白レンは思ったが、口には出さなかった。
「勇者志貴!私の事はかまいませんから世界の平和を取り戻して!」
アルクは悲痛な声でそう言った。
その声は知らない人が聞けば本当に世界を愛する女神のものに聞こえただろうが、志貴はとりあえずそれを無視する。
「このばかげた物語に幕の降ろし時がやってきたんだよ。」
「ふ、やはりそう来ましたか勇者志貴、では…。」
シエルはマントをたなびかせて立ち上がった。もちろんマント以外は身に着けていないで。
「あなたを倒してわたしが世界をいただきましょう!」
「え…?」
そう言うとマントが第七聖典に変化し、魔王シエルは勇者志貴に襲いかかる!
「コード…スクウェアッ!」
「そこまでするかフツーッ!」
志貴の悲痛な叫びがもちろんとどくはずもなく、戦闘が開始された。
/
「おお、何とお礼を申し上げたらよいか…。」
「申し上げなくてもいいから少し反省してくれ。」
魔王シエルは倒れ、世界の女神を救い出す勇者志貴。
「このご恩は生涯忘れる事はないでしょう。あなたをわたし達の世界にご案内したいのですが…。」
「それより元の世界に返してくれ。」
女神は勇者に神界に来てくれと願うが、勇者はそれを拒否した。なぜなら彼も世界を愛していたのだから。
「ではわたしは生涯あなたとともにすごしたいのです!」
「…はあ?」
いきなりアルクは志貴に抱きついてくる。あまりの展開に言葉も出ない志貴。
女神は勇者に生涯をかけて勇者と世界を救う事を約束し、ともに旅することを誓う。
「さあ!まいりましょう!輝く世界へ!」
「え!?何この超ベタ設定!」
「素晴らしいです勇者志貴さま!女神アルクェイドさま!」
「よくってよ志貴。」
「オ祝イ申シ上ゲマス、志貴サマ。」
仲間三人は勇者と女神の門出を拍手する。
この世界は勇者志貴、そして彼の意思をつぐものがいる限り永遠に平和であろう!
風景がいきなり秋葉の王宮にかわり、アルクと志貴の門出を皆で祝っていた。
いつの間にと驚く琥珀。どうやら
白レンの能力のたまものだったが、白レンもアルクの力をかりており、
ここまでスムーズにできるとは思わなかったようだ。
秋葉や翡翠、さっちんが花びらをまき、町の人々が歓声を上げながらスタッフロールが始まる。
「見事なまでにスタッフピッタリだし。」
志貴はそうつぶやいた。
スタッフ
製作総指揮、ストーリー製作、世界構成、住民&モンスター製作協力:アルクェイド
世界構成協力、住民&モンスター製作:白レン
キャスティング、装備&衣装構成、システム設計:琥珀
装備&衣装構成、システム協力:メカヒスイ
キャスト
勇者:遠野 志貴
女神:アルクェイド・ブリュンスタッド
氷紋術士:白レン
魔具使い:遠野 琥珀
機動戦士:メカヒスイ
女王:遠野 秋葉
近衛隊長:シオン・エルトナム・アトラシア
侍女長:遠野 翡翠
王子:遠野 四季(特別出演)
暗殺者:七夜 志貴(特別出演)
女幹部:弓塚 さつき
女幹部:黒レン
魔王:シエル
この作品を遠野 志貴にささぐ。
勇者と女神が快晴の中、山から町を見下ろし、カメラはそのまま空のほうに向いて、ジエンド。
/
「…。」
「…。」
ジエンドの文字が流れると同時に世界は崩壊し、全員遠野の屋敷の中にいた。
時刻はもうすぐ日の出というぐらいだ。
ちなみに全員衣装だけはそのままだったりする。
正直志貴には今までのが一晩で起こった事とは信じられなかった。
「で、どうだった?」
いきなりアルクが志貴に抱きかかえられたままでそう言ってくる。いきなり顔が真っ赤になる志貴。
「どうだった?王道を行くRPGってやつ。」
「ん、まさか自分で体感できるとは思わなかったな。すごい経験をしたと思う。」
「それだけ?」
むーっとアルクは頬をふくらませる。思わず志貴はくすっと笑った。
「いや、楽しませてもらったよアルクェイド。ありがとうな。」
「えへへー、どういたしまして。」
確かに皮肉をこめはしたけど、楽しかったのは事実かもしれない。でも…。
「二度はごめんだぞ。体がもちそうにない。」
「えー?なんで断言しちゃうのー、だめー?」
「だめなもんはだめ。」
「うー、けちー。」
ぷんぷんしてアルクはそっぽむいた。それを笑いながら見つめる志貴。と…。
「兄さん。」
「遠野くん。」
明らかに殺意のこもった声が志貴の耳に入ってくる。恐る恐る振り向く志貴。そこにいたのは…。
「その泥棒猫からはなれてください。」
「アルクェイドもいつまでも遠野くんとくっついていないでください。」
もちろんこの二人、秋葉とシエルだった。先鋒をきっているのはこの二人だが、レンも翡翠もさっちんも
明らかに見る目は嫉妬だ。
「志貴、なぜこのようなことになっているかは分かりませんが。覚悟はできていますね。」
シオンなんかは拳銃を構えている。
一方の白レンと琥珀、メカヒスイの3人、さっきまでの仲間は違う反応を示している。
「これは面白い展開になってきましたねー。」
「……あきれた。」
琥珀はわくわくしながらそう言い出し、白レンは本当にあきれたといった顔でそっぽ向いてしまう。
「さあ兄さん!」
「遠野くん!」
「志貴!」
「って琥珀さん!」
何とかごまかそうと志貴は琥珀に話をふる。
「翡翠はメカヒスイみたいに協力者じゃなかったのか!?」
「いえいえ、翡翠ちゃんはイの一番に自ら洗脳探偵を受けてもらいましたので。」
「……。」
もしタタリがこの町にあったらとっくに実体化できるほどに志貴の恐怖はピークにたっしていた。
思わず後ろに下がるが、彼にかかえられているアルクはいたってマイペースだ。
「ねぇ、どうでもいいけどさあ…。」
「アルクェイドも早く遠野くんから離れなさい!」
「その通りです!早く兄さんからお離れなさい!」
シエルはマントから黒鍵を取り出し、秋葉は髪を朱く染め出す。アルクはじろじろとその二人をみてこう言った。
「その格好のままでもいいの?わたしはいっこうにかまわないんだけれども。」
「「!?」」
二人は、と言うより志貴の敵だった面々は各々の服装を見る。秋葉は純白の礼服、シエルは裸にマントである。
他の者も反応をしめすが、とりわけ秋葉とシエルはすさまじかった。
「きゃ…きゃあああっ!」
「なっ…何よこれはーっ!」
シエルは自分のあられもない姿を見てマントで覆い隠ししゃがみ、秋葉は自分の服をべたべたと触って狼狽する。
「それにしても随分とすごい衣装にしたわねー琥珀。」
「ええっ…?」
いきなり話題をふられて視線が琥珀の方に集中する。中にはもちろん殺気も含まれている。
「別にわたしとレンと志貴だけで十分だったけどあなたの協力のおかげで助かったわ。ありがとうね。」
顔を真っ赤にした秋葉は別室に行く前に琥珀を睨みつけて出ていく。シエルたち他の面々もそれに続く。
「……今日はそれなりに楽しめたわ。私は休ませてもらうから。おやすみなさい志貴。」
「あ、おやすみさない。レン。」
「え…?」
白レンはいつの間にか普段着に戻っており、あくびをしながら部屋を出ていった。
「ソレデハワタシモ仕事ガアリマスノデ。」
「ええっ?」
メカヒスイはうやうやしく一礼してドレスのまま部屋を後にした。
「それじゃあ志貴、今日は土曜だし久しぶりに朝食作ってよ。ほら。」
「わ…分かったよ…。それじゃあ後はがんばってくれ。」
「えええっ!?」
アルクは純粋に志貴にごはんを作ってもらいたかったから、志貴は一刻も早く責任をなすりつけてこの場を脱出するために、二人は部屋を
そそくさと出ていった。
後に残るは琥珀ただ1人。このままでは確実に……。
「そ…それじゃあ私も…。」
「どこへ逃げるのかしら琥珀。」
「もう逃がしませんよ。」
「どういう事なのか説明してもらいましょうか、琥珀。」
「……!」
「姉さん、おいたがすぎます。」
「もう怒ったんだから…!」
琥珀は背中を硬直させ、おそるおそるふりかえる。そこには笑顔をたやさない秋葉やシエルたちがいた。
もちろんその笑顔がいい方向に向かうはずもない。
「あっ秋葉さま!これはわたしではなくアルクェイドさまが…!」
「問答無用です。」
せまりくる利用されていたなかで、秋葉は琥珀の顔をつかんだ。
その日、朝刊を配達に来た人が悲鳴を聞いたとか聞かなかったとか。
/
「…いやー、マジで大変だったぞ、あのストーリー。」
「これでも志貴のために必死になって考えたんだから。」
アルクは志貴に作ってもらったスパゲティを食べながらそう答える。
朝日は十分に昇り、雲ひとつない、快晴だった。志貴は普段着に着替えていたが、アルクは女神の服の
ままだ。
「危うく俺までとばっちりをくうところだったんだぞ。」
「むー、志貴はわたしよりシエルや妹の方が大事なの?」
「えっ…?」
そう言われると答えようもなく、志貴はオロオロする。
「でも普段のアルクもいいけど、あのお姫様アルクもいいな。」
「え?」
「健気で勇者のためにつくす。なんかあこがれないか?」
「うーん…。」
「でもまあ普段があるからあれはいいと言えるんであって、毎日あれはゴメンだけどな。」
「そりゃそうよね。ところで次回作も考えてるんだけど…。」
「遠慮しときます。」
キッパリ答えて志貴はなべを洗う。ちなみに自分の分はまだ食べていない。
「志貴、はやくしないと冷えるよ。」
「ん、ちょっと待ってくれ。」
当たり前の日常がまた始まる。非日常なんてたまにだけで十分だ…と志貴は思った。
『でもたまになら…いいかな?』
「ねえ志貴。」
「ん?何だ?」
「今日…映画見にいこっか。」
「……そうだな。」
志貴は笑顔で提案するアルクに笑顔でそう答えた。
おしまい