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「あら、遠野くん」
学校、昼休み。生徒たちの会話などで一番にぎわう時間といっても過言ではない。
そんな中、シエルは志貴を見つけると彼の方へと駆け寄った。
「お、シエル先輩じゃないっすか」
「シエル先輩。お昼まだですか?」
志貴と有彦もシエルに気づくと購買から買ってきた昼ごはんの入ったビニールを上に掲げる。
シエルはそんな彼らににこっと笑った。
「いえ、これから食べようと思っていたところですよ」
「それはちょうど良かった。俺たちと一緒にどうです?」
「もちろんです」
イエスの答えにひそかにガッツポーズを握る有彦。
やはり何事にも花は大事だと確信していたから。
「ところで兄さん。琥珀の様子が少しおかしくありませんでしたか?」
で、こうなりました。
さっきまでの冷戦も真っ青なやりとりとはもはや別次元の話に志貴はほっとする。
もう少しで胃薬が必要になっていたところです。
…どうして同じ購買のものを食べているはずなのにこうも秋葉が食べていると豪華な料理に見えるんだ? と志貴は思うが片隅に置く事にする。
志貴その話題を固定させるべく考える。
「…俺はいつものとおりだと思ってたんだけど…」
じっくりと考えた末、結局この結論しか出なかった。
朝いつものとおり遅く起きたと秋葉に言われて、翡翠の出向かいを受けてすがすがしく学校に来た。
それだけだ。屋敷の中で翡翠も琥珀も変わった様子はなかったが…。
「思い違いじゃないのか?」
「そんな事ありません。あんなすがすがしい琥珀は危なくて仕方ありません」
と断定する秋葉。
それは偏見じゃないかともシエルは思うが黙っておく。
「…また琥珀さんが何かをたくらんでるって?」
「そうに決まってます。兄さんも帰宅なさったら琥珀にさりげなく問いただしてくださいね」
「琥珀さんが何かをたくらんでるなんて言ってたら年中神経使う羽目になるんじゃないか?」
それもまた日常、我関せず。てゆうか関わったら最後、最後に被害をこうむるのは自分だし。
志貴はいたって平然と昼食を進めている。
むっとする秋葉。
「兄さん、ちょっとあきらめが早すぎません?」
「慣れたと言ってくれ。それより有彦、今日の小テスト…」
「兄さん!」
「…分かったよ」
降参とばかりに両手を挙げる志貴。
「琥珀さんに問いただせばいいんだよな?」
「ええ。できれば厳しい口調でよろしくお願いします」
「厳しい口調…」
厳しい口調で琥珀を問いただす志貴。
それを認めて襲いかかるのは琥珀。そこに現れた翡翠。
志貴と翡翠は千日戦争に陥り、その隙に琥珀の幻朧魔皇拳が…!
「あれ? でも幻朧魔皇拳なら翡翠の方が…」
「兄さん…」
とそこまで言っておいて志貴は言葉をとめた。
ほとんどそれは直感的なものだったが…。
「あ…秋葉?」
秋葉はこれでもかと言うぐらいの笑みを浮かべている。
そう、もしこれがゲームならBGMが変化するか停止するぐらいの。
「兄さん? 何か言いましたか?」
「いえ、ベツニナニモー」
志貴は首を横に勢いよくふるって手をばたばたさせる。
日常生活で死亡フラグを立たせたくはありません。
「とにかく、分かっていただけて幸いです」
「それは良かった」
そうした何気ないいつものような会話。
だが、ここで真剣に取り組んでいればあんな事にはならなかったとシエルは後悔している。
/
「あ、志貴だー」
えへへー、と無邪気に笑いながらアルクェイドは志貴に駆け寄る。
通学路真っ只中で若干殺意を感じている志貴だったが、アルクはお構いなしだ。
「学校終わったの?」
「ああ。これから帰るところ」
「ならわたしと遊びに行こうよ。見たい映画があるんだー」
と言いながらアルクは映画のチラシを志貴に見せる。
「これなんかどう?」
「…何に感化されたんだ?」
「あ。それひどーい」
「確かに今はこう言ったのがはやりだけど…」
アルクが持ってきたのは漫画を原作とした長編映画だった。
このごろの傾向としてあげられる漫画を原作とした実写ドラマ、そして映画。
脚本家は零から作る気はないのかとか言いたくもなるが、これがまた当たり外れが激しいとくる。
キャラゲームが駄作と傑作と両極端に分かれるのとはまた別だが。
「これ以上の事志貴ならできるけど頭脳戦ってやつがないじゃない」
「頭脳戦でネロとかと戦えって言うのか?」
「だから見に行こうよー」
チラシをぴらぴらとさせながらアルクはこう言う。
ひとつひとつのしぐさの度に周りの皆さんからの殺意が増加しているのは志貴の気のせいだけではないはずだ。
「…んー、悪いけど今日は家の用事があるんだ」
「えー?」
期待からいきなり失望に表情が変わるアルク。
それに志貴はぐっときてしまう。
「この前もそう言って遊んでくれなかったじゃない。志貴にも山吹色のお菓子が必要なら用意するわよ」
「山吹色のお菓子?」
栗か? まんじゅうか? それとも悟空の武道着の色とか?
と真剣に悩む志貴。
「山吹色のお菓子でございます」
「…なんなんだ?」
「志貴、ここは「くるしゅうない」よ」
そのフレーズに固まる志貴。
アルクが取り出したのは何やら木箱だ。
それを恐る恐る開いてみる。
「…おぬしも悪よのう」
「あなたさまほどでは…」
「って違うっ!」
案の定と言うか、そこには紙で包まれた何やら重い山吹色の物体。
間違いない。これは時代劇でよく見る『山吹色の菓子』だ。
「お金が欲しいんじゃなくて! 本当に用事なんだって!」
「ぶー、けちー。どんな用事よ」
空想具現化でその物体を出現させたものを消滅させながら不満を言うアルク。
志貴はとりあえずみんなには分からなかった事にほっとする。
「えっと、それがだな。琥珀さんができれば早く帰って欲しいって言うんだ」
「琥珀? あのメイドが?」
「ん、何でも俺と秋葉にぜひお願いしたいことがあるんだそうだ」
「またあの屋敷のじじょーってやつ?」
もういいかげんうんざりという感じにやれやれとため息をつく。
「いっその事志貴わたしの家に住んだら?」
「いや、それはできないって。俺の大切な家族なんだから」
「じゃあ明日は大丈夫よね?」
「多分大丈夫だと思うけど…」
と、そこで志貴は今朝のやり取りを思い出す。
「志貴さん、すみませんが今日はお早めのご帰宅をお願いできますか?」
「早めの帰宅? …今日は用事もないし、特に居残りがなければ帰れると思うけど」
「分かりました。ではよろしくお願いしますね」
「それで早めに帰宅したら俺何すればいいんだ? 場合によったら帰るついでにおつかいしてくるけど」
「あ、それには及びません。全部屋敷で行う事ですから」
「分かりました。じゃあそうしますね」
「それと志貴さん」
「はい?」
「よろしかったらご学友の方々やアルクェイドさんもお連れしてくださっていいですよ」
「…『してもいい』って、何かの手伝いじゃないのか?」
「ええ。新作のもののご感想をいただきたい。それだけですし」
「…それって料理か何か?」
「それはもちろん秘密ですよー」
「…分かりました。じゃあ行ってきますね」
「はい。行ってらっしゃいませ」
「…そう言えばアルクェイドたちも連れてきてもいいみたいな事言ってたな…」
当然理由の見当は志貴にはついていない。
「それって琥珀が?」
「うん。まるで「今日の天気は晴れですよー」って言ってる時と同じ雰囲気で」
そう言って日常の会話的に爆弾発言をするからたまったもんじゃないのだが、と志貴は思う。
アルクェイドの答えは既に決まっていて、にこやかにこういうのだった。
「分かったわ。じゃあ志貴についてく」
「…」
しまった、墓穴を掘った。いや、それどころじゃなくて入って自分で穴埋めた。
志貴は一瞬で思ったが時既に遅し。
「兄さん、なんでアルクェイドさんがここにいるんですか?」
と髪を紅くして笑みを浮かべる秋葉の姿が今目の前にいるように見えてくる。
「すまない秋葉。やっぱ時代は胸…」
デッドエンド。
「って何考えてんだ俺…」
「早く行こうよー」
「ってひっぱるなって!」
アルクは早歩きで志貴の腕を引っ張り、一直線に遠野の屋敷に向かうのだった。
/
「兄さん、なんでアルクェイドさんがここにいるんですか?」
と髪を紅くして笑みを浮かべる秋葉。
全く予想通りの反応ありがとう。
「琥珀さんがアルクェイドやシエル先輩達も連れてきていいって言ってただろ。それって何か大仕事を手伝って欲しいって意味だと思ってな」
「…そうですか?」
髪は元に戻ったが今度は志貴をジト目で見る。間違いなく志貴の主張を信用していない。
ああ、その視線が痛い…。
「…ところで秋葉」
「なんでしょうか?」
「やっぱ時代は胸だろ」
空気が一瞬で凍った。
「もう一度おっしゃっていただけませんか兄さん?」
女神のような笑みを浮かべる秋葉だが、その髪は烈火のごとく紅く染まっていた。まさに怒髪天。
志貴は半泣きの状態でわたわたと手をふる。
「違う! 俺はそんな事は言ってない! 俺の名にかけて誓う…!」
「なるほど、ね…」
「だからこの際おまえとは別れようとは思うんだ」
「はあうっ!?」
志貴は己の耳を疑う。
確かに自分は言っていない。だが聞こえてくるのは自分自身の声だ。
「いったい何が…!?」
「ツンデレはブーム去ったって」
なおも聞こえてくる己の声。
「兄さん」
「は…はひ…」
己の命の危険を感じはするが、説明どころか言い訳をしようにも声もでない。
大魔王から逃げられないのと同じだなーなどと心の隅で思っていたりする。
「お覚悟はよろしくて?」
秋葉の笑顔はとてもさわやかなもので…。
粛清中。
「どう志貴、わたしの声色。うまくなったでしょー」
「た…頼むから他の事に時間を…」
ぶすぶすと煙をあげて倒れる志貴。
ちなみに「じぶんはむじつだー」と壊れた人形のように何度も繰り返している。
アルクはえへんと胸を張っていて、秋葉はわなわなと手を震わせている。
「ごめん、俺が一番すきなのはアルクェイドなんだ」
「アルクェイドォーッ!!」
髪を真っ赤に染めてアルクに襲いかかる。
「ちょっとー妹、そんな大声だしたりしてちゃ近所迷惑よ」
もう既に明日のうわさはこの事で満たされるだろとかろうじて意識のある志貴は思った。
だって今もどっかんどっかん言って秋葉が逃げるアルクに攻撃してるし。
後始末はどうしてるんだろうか…などと人事だ。
「…志貴さま、そろそろよろしいでしょうか?」
「…ああ、何とか」
翡翠は至って平然と志貴に問いかける。
もうこれは日常レベルなんだなーと今更ながら志貴はがくっとくる。
「アルクェイドのせいで聞きそびれたけど、何で秋葉がここにいるんだ?」
「…すみません。わたしも姉さんに「翡翠ちゃん、志貴さんがお帰りになられるまで秋葉さまを通さないでくれないかしら」といわれただけなので…」
やっぱり琥珀さんの仕業か…と思わず顔に手を当てる志貴。
そう、今志貴たちは遠野の屋敷の門の前にいたりする。
近所迷惑と言う言葉はとりあえず抹消済みという事で。
「志貴さまもお帰りになられた事ですし、門を開けましょうか」
「ああ、頼むよ」
もはやアルクと秋葉の事は視界に入れないようにして、何とかそんな言葉を言うしかなかった。
そんな四人のやりとりを遠めで眺める影が4人。
「…これどういう事だ?」
「…私にも分かりかねます」
「く、あのあーぱーはまた出し抜こうとしたみたいですね…!」
「出し抜こうとしているわけじゃないと思いますけどぉ…」
その遠くから志貴たちを見ていた四人、有彦、シオン、シエル、さつきは口々にそう述べる。
そうしている間にも志貴たち4人は門の内側に入っていく。
「…おかしいですね。なぜあのあーぱーまでもが屋敷に当然のように入るんですか…!」
ぎり、とつかまっていた電柱を握るシエル。
そこがひび割れるのは気のせいだと思う有彦。
「…でしたら学友なのですし、次のテスト範囲に関して教えに来たといえば通してくれるのでは?」
「ナイスアイデアです」
「早いですね…」
シオンの意見を聞いた直後にシエルは歩き出し、門の方に向かっていく。
「…で、俺たちはどーするんだ?」
「ご随意に。私は興味がわきましたので彼女と同行させていただきます」
シオンもこうあっさり言うとシエルの後を追うように歩き出す。
「…まあ、興味がわくっつえばわくけどよ…」
有彦も頭をかきながらシオンに続く。
「え…えっと…」
1人残されたさつきも3人の後を追う事にした。
/
「秋葉、悪いけど急用を思い出した。琥珀さんには今日は戻らないと…」
「兄さん。逃亡は許しませんよ」
なるべくさりげなーく逃げ出そうとした志貴の襟をむんずとつかむ秋葉。
なぜかどんなに暴れてもその手は離れなかったりする。
「…兄さん」
「何だ?」
「たしか今日の天気は快晴ですよね」
「ついでに言うとまだ4時になったばっかだぞ」
あきらめて秋葉の意見にうなづく志貴。
目の前に広がるのは遠野の屋敷。
屋敷でともっている照明が暗闇の辺りを幻想的に照らし、それを見るものを思わずうっとりとさせる。
そう、なぜか屋敷の敷地に足を踏み入れたとたんに月明かりがまぶしい真っ暗な夜に変化していたのだった。
「どんなCG?」
「そこは問題じゃありません」
ざわ…と秋葉の髪が揺れる。
「ふっふっふ、琥珀のやつ、これを口実に給料80%カットしてやります…」
「黒いって妹」
秋葉はアルクの言葉を完全に無視し、大またで屋敷へと向かっていく。
ため息をつきながらも後を追う志貴。
「琥珀ー!!」
そして秋葉は勢いよく扉を開けた。
ロビーは明かりがこうこうと照っているが、まるでそこは捨てられたように無人で、生命の息吹が感じられない。
静寂がそのロビーを支配していた。
「出てらっしゃい琥珀! 今なら給料50%カットですませてあげます!」
「せこいよ秋葉」
ボソッと言う志貴をとりあえず無視して秋葉はまだ大声を発する。
だが琥珀はおろか、屋敷にいるはずの白レンも出てこない。
「翡翠、本当に琥珀さんは屋敷にいるのか?」
「ええ、そのはずですけど」
翡翠はパタンと玄関の扉を静かに閉め、あたりを見渡す。
いつもならば誰かしらの反応が返ってくるはずなのだが…。
と、室内の照明が急に暗くなった。
明かりは外から照らされる月光のみとなる。
「琥珀…! 悪ふざけが…!」
憤る秋葉だったが次の瞬間、右側の扉が音を立てて解体される。
とっさに身構える秋葉と志貴。
「は…早くしろ志貴! ここは危ねぇ!」
「分かってる…!」
「「え?」」
だが2人は扉の向こうから出てきた2人の姿を見て驚いた。
見間違うはずもない。彼らは…。
「やっとロビーに戻ったか…」
「おお! 秋葉じゃないか!」
「し…四季?」
「七夜?」
2人のシキこと七夜と四季だったのだ。
2人は志貴たちに反応こそ示したものの、そのまま玄関の扉の方に向かう。
そして、
「蒼穹の空を汚す!」
「閃鞘・八点衝!」
2人は扉を開けるなどと言うことはしようとせず、ただ破壊のために己らの武器を振るった。
幾十人もの達人や人外だろうと葬り去るだろうその攻撃は、
材木でできた扉すら破壊できなかった。
「ちぃ…! やはり駄目か…!」
「く…! やっぱ琥珀のやつをどうにかするしかないのかよ…!」
がくっとうなだれる四季と厳しい顔をしつつナイフをしまう七夜。
その表情はあらゆる苦悩が刻まれているかのように疲れきっていた。
何の事だかさっぱりなのは志貴たち。
「…まあ、何で七夜たちが復活してるかはこの際置いといて…」
「…置いといていいものなの?」
「いったい何があったのですか?」
志貴と秋葉の疑問にびくっと体をさせる七夜と四季。
その表情からはもうどうかしてくれと言った印象がうかがえたりする。
「…全ては秋葉たちが学校に行ってから…」
「どうせ琥珀のしわざでしょうから手短に一行で終わらせてくれません?」
「うっ! ひどいな…琥珀は秋葉の使用人でもあるだろ?」
「ええ、立派に働いているし、余計なことさえしなければですけどね」
…オレには想像できないぞ、と四季は思ったがあえて言わないことに。
「つまり、琥珀がこの屋敷を改造して脱出困難な化け物屋敷にした。これでどうだ?」
「短すぎです。もっと詳しく言ってくださらないでしょうか?」
「短く言えって言ったの秋葉の方…!」
「ご不満なようでしたら私が解決して差し上げますけど。一撃で」
「いえ、何でもありません…」
ほろりと涙を流す四季だったが志貴と七夜はあえて見なかったことにする。
痛いほどその理由が分かるから。
「なんでも『ほーんてっどまんしょん』とか『たわーおぶてらー』とか何とか言ってはりきってたみたいだけど…」
「『ほーんてっどまんしょん』と『たわーおぶてらー』?」
聞いたことないフレーズだ。それが英語である事は分かるが、何を意味するのかはさっぱりだ。
首をかしげる秋葉。
「ああ、あの舞浜にあるテーマパークのアトラクションね」
「アルクェイド?」
そんな中真っ先に手を打つアルク。
「ほーんてっどまんしょん、"haunted mansion"の名のとおり『幽霊屋敷』または『取りつかれた屋敷』ね。いわゆる落ち型のアトラクションでないにも
関わらず行列ができるホラー系のアトラクションよ。『カリブの海賊』と違って大量の人数がさばけないからかもしれないけど」
と人差し指を立てながら説明するアルク。
まるで死徒の説明をしているように分かりきったこととばかりに。
「どこでそんな情報仕入れてくるんだ?」
「テレビで。志貴連れてってくれないし」
「俺が悪かったです」
思いっきり頭を下げる志貴。
小遣いは少ない、バイトは制限されてる。行けない事はないけど他の事に使ったほうがよさそうだろう。
「ちなみに『カリブの海賊』が『パイレーツオブカリビアン』になったように『ホーンテッドマンション』も映画化されてるわ。主役はエディ・マーフィ
だけど大人がホラーとしてみるのはお勧めできないわ。『ゴーストシップ』でも見た方がいいわね。ちなみに今現在ティム・バートン作品の
『ナイトメア・ビフォー・クリスマス』に合わせた内容に期間限定変更中」
「アルクェイド…」
よくそこまで知ってるな。
「たわーおぶてらー、"towor of terror"の名のとおりこれもまたホラー系アトラクション。でもこれはいわゆる落ち型のものね。これは開業したばっか
だからしばらく静観してた方がよさそうよ」
「今年何年だったっけ?」
「どうだっていいじゃない」
いや、重要だろそこ。とは思う志貴だったがあきらめた。
「…まあ、琥珀のやつがが何をしたいのかはよーく分かりました」
むすっとしながら秋葉は玄関の扉を開けようとする。
「…?」
ドアノブをひねる。開かない。
「…!?」
更にひねるが開かない。
「…っっ!! 全てを奪いつくして差し上げます!!」
とうとう強硬手段にうってでたが、結果は変わらず。
略奪でも扉が破壊できなかった。
「無駄だ。さっきから俺たちが扉や窓を破壊しようとしても破壊できなかったからな」
七夜はうんざりといった感じに手を横に向け、座り込む。
四季も壁に寄りかかって座ってしまった。
「あー、七夜。オレたちって何でこんな事にしか呼び出されないんだ?」
「琥珀に聞け。俺に聞くな」
「…はあ」
深く四季はため息をついて髪をかきあげる。
「…それで、琥珀さんは俺たちに何をやらせたいんだ?」
「て言うか志貴、おまえなら直死でこの扉殺せるだろ!」
四季は質問してきた志貴の肩を左右に揺らし、こう必死に主張する。
「そうですよ兄さん! 琥珀の姦計になんて付き合う必要はありません!」
「え…えっと…」
志貴はアルクと翡翠に視線を移した。
「わたしは面白そうだからそのまんまでもいいんだけどなー。志貴と一緒にいられればいいし」
「…わたしからは返答いたしかねます。姉さんが何かをするのはいつもの事ですから」
「だめだ。全くあてにならない…」
あくまでアルクェイドは言ったままで、翡翠はあくまで淡々と話す。
七夜はどっちでもいいだろうから、2対1か。
「しょうがないなぁ…」
自分も琥珀さんに振り回されるのはいやだから、と心のそこで思いながら志貴は眼鏡をはずす。
そして扉の方を見つめた。
「…見えた」
本当にかろうじてだけど、線だけが見える。
まるで昼のアルクェイドを見ているかのように死の線が薄いのは、それだけ完璧なものとして構成されているからなのか。
「なら兄さん。早くしてください」
「分かったって」
琥珀さん、ごめんよ。と志貴は思いながらそのナイフを振るおうとして、
扉が開くのを見て動きが停止する。
「おじゃまします。って遠野くん、そこで何をしているんですか?」
「シ…シエル先輩?」
開いた扉から入ってきたのはシエル、シオンだった。
「おじゃまします、志貴」
「シオンまで。この屋敷に無断で入るとは…」
「いえ、秋葉。先ほど呼び鈴を鳴らしたところ、琥珀が入っていいと言ったのでてっきり貴女の許可があるものかと…」
シオンは淡々と述べた。
「おじゃましますー」
「おじゃまします」
そして有彦が入り、さつきが入って彼女は扉を閉め…。
「だああっ! 閉めるなさつき!」
「え…!?」
四季の言葉でさつきの動きが急停止する。
「ナイスだ四季」
直後に七夜がその停止したさつきに代わって扉に手をかけてそれを大きく開く。
そして七夜の動きも固まった。
「な…なんだと…?」
七夜は思わずつぶやいた。
「な…何ですかこれは…!」
後ろから覗いたシオンまでもがそれに対してそう言ってしまう。
「…うあ、琥珀さんらしいといえばらしいけど…」
「だよねー」
逆に志貴はそれを見てため息をつき、アルクェイドは楽しそうにそれを見ている。
「へえー、これってリアルにするとこんなふうになるんだー」
「アルクェイド、これは一体何なんですか?」
キッとアルクをにらみつけるシエル。
「あれ? シエルこれ見た事ないの? 16回は間違いなく見てるはずなんだけど」
「16回って…何なんですかその数の根拠は。1回たりともこんなの見た事ないですけど」
「ちなみにそこの四季って彼は17回」
「オレが17回…?」
はっとシエルは口を覆い、そして青ざめた。
「アルクェイド、これはまさか…」
「ごめいとーう」
ばっと手をその扉の外の光景に向ける。
「これは黄泉比良坂よ」
それはいつものような外ではない。
もはや生気を失った人々が草一本は得ていない地面の上をはだしで歩き、遠くにある丘の上にある大穴の方に進んでいるのだ。
「黄泉比良坂?」
さつきが首をかしげる。シエルも秋葉もその説明では分からないようだ。
アルクェイドはちょっとうれしそうにしょうがないわねーと言って指をまた立てる。
「それはね…」
「日本の太古のことが書いてある『古事記』によれば黄泉、つまり冥界との境に位置するもので、死なないとやって来れない場所」
「ちょっと志貴!」
アルクェイドが答えようとしているところをいち早く志貴は答えた。
思考タイムゼロ。ほぼ反射的に。
「まじめに答えてどうするのよ!」
「だってアルクェイド、おまえ絶対にあっちの方で答えようとしてるだろ」
「当然じゃない」
やっぱり、と志貴は顔を手で覆った。
「これ以上琥珀さんのペースに巻き込まれて…!」
「じゃあ見てなさいよ」
志貴はアルクェイドに思いっきり口をふさがれる。
必死に抵抗するがびくともしません。
「せきしきめいかいはー」
アルクェイドは虚空に向かって指をさす。
きょとんとするのは秋葉とシエル、そしてシオン。
一方、手をつくのは有彦とさつき。
「おお、すっかり忘れてたぜ」
「そういえばこんな感じだったね」
秋葉とシエルは有彦たちのリアクションを見て、わなわなと手を振るわせる。
「どう妹。分かった?」
「いいえ」
秋葉、きっぱり。
「ですがとてつもなくくだらない事を琥珀のやつがしていると言う事はよーく分かりました」
髪を完全に紅く染めて秋葉は扉の前に進み出る。
「こんなまやかし、私が一撃で破壊してくれます!」
そして、
「赤主・焔華!」
紅き髪がその一帯を多い、略奪しつくす。
が、
「うそ…!」
その世界は無傷だった。
まだ亡者たちが穴の方に向かっている光景に変化はない。
「既に妹は仏陀の手の上にあった」
「そのネタはもういいって」
「フロムシャカ」
「だからいいって」
全く意識しないでもそれと似たようなことをやった秋葉も秋葉だけど、と志貴は心底で思う。
「そんな事が…!」
驚愕に目を見開いて、退く秋葉。
「志貴、ここはあなたの出番では?」
「え…?」
「直死ならば偽りの世界ぐらい簡単に殺せるはずです。何もここまで琥珀のシナリオどおりに動く必要はないのだから」
シオンは志貴に対してそう促した。
と同時に有彦と翡翠以外の注目が集まる。
「どれ…」
「あ…! ちょっと志貴…!」
やらなきゃいけない雰囲気だなと思いながら志貴はまた眼鏡をはずしてその世界を見てみる。
それを止めようとするアルクだったが、もう既に時は遅かった。
「う…っ!」
即行で眼鏡をかけて体を反転させ、かがみこんでしまう志貴。
口を押さえてもう吐きそうだ。
「遠野くん!」
「兄さん!」
すぐに彼にかけよるシエルと秋葉。
一方、アルクは四季と共に黄泉比良坂を眺めていた。
「どう?」
「…駄目だ。やっぱ見えねえや」
「やっぱりね」
アルクがはあ、とため息をついて志貴の元に歩み寄った。
「見たんでしょう。あたり一面の死を」
「あ…ああ…」
何とか吐かずにすんだようだがまだ涙目で口と目元を押さえている。
「アルクェイド、これはいったい…!」
「黄泉比良坂はこの世とあの世の境。そんなところに生があると思うかしら?」
「あ…っ!」
「生はなく、死だけが世界として存在する。だから死を見る志貴には見えすぎて、生を見る四季には全く見えないのよ」
アルクェイドは扉を閉めた。
自身が空想具現化を使えば偽りの世界を破壊できなくもないが、そうしたら現実世界にも間違いなく被害がでてしまう。
「これは直死以外での脱出方法を考えるべきだって事ね」
演出なのか、その瞬間に稲光が光る。
そして雷が落ちる音。
「逃げるなら…いや、もう遅いか…」
「じゃあな志貴、秋葉。オレたちは自力で脱出させてもらうぜ」
そう言うなり七夜と四季は階段を上がって二階にあがる事にした。
「二階に? なぜわざわざ出口から離れるのですか?」
「一階は散々な目にあってきたけど全部回った。後は二階だけなんでね」
シオンの疑問に四季はそう答えて去っていった。
その場に残ったのは8人。
「なあ、どうでもいいけどよ。俺も少しまわらせてもらうぜ」
「わたしも客人をもてなさねばなりませんので」
有彦は手をひらひらとさせて、翡翠は優雅に一礼をして居間の方へと向かっていく。
「有彦、ここは単独行動はすべきじゃないと思うけど」
「なら早くしようぜ」
志貴の指摘にみな賛同し、全員で居間に行く事にした。
/
「はい遠野くん、紅茶です」
「どうもありがとう、シエル先輩」
「いえいえ」
翡翠とシエルは台所に向かって無事に戻ってきた。
全員分の紅茶をシエルはティーカップに注ぐ。
遠野家の居間。ここで志貴たちはそれぞれソファーや椅子に座り、落ち着いていた。
相変わらず照明はつけられず、居間は暗いままだ。なのにガスは使える矛盾もあるが。
まずは物事を整理する必要があるのだが、それよりも休息を優先した。
ちなみにテーブルにはスコーンも用意してある。
「あれ? これおいしい」
「当然です。英国のアフタヌーンティーのやり方もちゃーんと分かっていますから」
志貴が紅茶に口をつけたと同時に述べた賛辞に、自慢げに胸を張るシエル。
「あら、本当」
「お茶の葉も開ききっているし、香りもそのまま。完璧です代行者」
秋葉やシオンをはじめとして、他の人たちからも賛辞の声が上がる。
「アルクェイド、あなたにもくんであげましたよ。ありがたく思いなさい」
「んー、ちょっと待って」
たった一人、口につけていないアルクェイドを除いて。
彼女は丸い物体をランプにかざし、首をかしげている。
「ねえ、これ何?」
結局分からずに聞く事にした。
志貴がカップをテーブルに置き、それをとってみた。
「オープンリールじゃないか?」
「オープンリール?」
まじまじと眺めてその結論に達する。
「間違いない。映画用のだ。どっかに映写機ないか?」
「えいしゃき?」
志貴は席から立ち上がり、辺りを見て回る。
程なくして、彼は機械を抱えてそれをテーブルの上に置いた。
いぶかしげにそれを眺める秋葉。
「兄さん、何なんですかこれは」
「これは見せる娯楽のうちのひとつで、映画館なんかでやるようなやつ。ようはテープに光を当てて、映像を見せるんだ」
「なぜそんなものがうちに…」
「いや、遠野の屋敷ってテレビがないだろ?
琥珀さんに聞いてみたら「チャップリンやバスター・キートンのような味のある作品は映写機で見るべきです」って豪語されて…これがそれ」
何で喜劇ばっかなのかは知らないけど、と志貴は付け加えるが秋葉にはそれが聞こえていなかった。
「琥珀さんの私物みたいだけど見たの初めてだなぁ」
「…その琥珀の私物があからさまにここにあるという事は…」
「…見ろって…事じゃないか?」
また稲光が走る。そして雷鳴。
「でもこれだけだと音声が流れないからどっかに音楽用の再生機器があるはずなんだけど…」
「それはこれですか?」
「あ、それ」
シオンが指差した方向にあったのはレコードディスクとそのプレイヤー。
電気に頼らないぜんまい式だったりする。
「…クラシックですね。DVDがある中でなぜこれを?」
「…まあ、とりあえず再生してみようよ」
というわけでセットをして再生開始。
幸いにも暗いので映像は壁に映すので十分だ。
「…ついに私はこの秘宝を発見したのだ。これで世界に私の名声が轟き、我が家系の永遠なる繁栄は約束されたものと同じなのだ」
映写機のカタカタという動作音とともに唐突に映像は始まった。
映像は擦り切れていて、音もある程度飛んでいる。それでもその人物が琥珀だというのは誰もが分かった。
「この秘宝を我が屋敷に持ち帰り、私たちは盛大なるパーティーを開く事になった」
「ってどこが琥珀の屋敷ですか」
さっきの映像は琥珀がジャングルの中から探検団と共にお宝を運び出しているところ。格好はトレジャー服。
今の映像はきちんとした身なりで、19世紀初頭を思わせる。いるのは立派な屋敷の中だ。
だが知っている人が見ればそのジャングルはサイコガーデンだし屋敷は遠野のをまんまだ。
「パーティーは盛大に行われ、各界の要人たちが参列してくだされた」
「…また七夜と四季が出てるな」
「他にも見た事ある顔ばっかですね…」
志貴とシエルのつぶやきをよそに映像は続く。
「だが、そのパーティーで悲劇は起こった」
乱れる映像。映像でも照明が暗くなったので正確に何が起こっているかはわからない。
「屋敷からは脱出できなくなり、次々と人が消えてしまった…」
琥珀1人の映像になる。独白を続ける彼女の苦悩の声が漏れる。
正直今すぐハリウッドデビューできるんじゃないかなーと志貴は人事のように思った。
「屋敷全体が呪われてしまったのだ…じきに私も消失してしまうだろう…」
どうやらこの居間でこの映像を撮ったらしい。
一体いつの間に?
「このテープを見た者がいたら、どうかこの屋敷で起こった悲劇を二度と起こさないよう…」
映像が乱れた。
次の瞬間、琥珀の顔は消えていた。
そして、代わりにあったのは…。
映像は終わった。
「結局何があったのかは分からずじまいでしたね」
「こんな事なら彼らを問い詰めておくべきでしたね」
映像が終わり、映写機と再生機を片付ける志貴をよそにシオンと秋葉はこうつぶやいた。
「なんだか本物のミステリーみたいだな。面白そうじゃん」
一方の有彦はあくまでアトラクションに参加するかのように大げさな身振りをする。
「…問題は一足先にその屋敷の呪いってのを体験した七夜と四季のあわてようなんだけど…」
そう、あの2人が恐れるぐらいなんだから、とんでもない仕掛けばかりなのだろう。
「志貴、物事を論理的に考えればすぐにでも解決できます」
「え?」
シオンはきっぱりと言い切った。
「いくらあの琥珀がタタリ(白レン)と結託したところでこちらには多くの者たちがいます。対処できないものなど何もないのでは?」
「ん…確かに」
いくらあの琥珀さんとレンでもこっちにはアルクェイドも先輩もシオンもいるしなぁ…と志貴。
「ですから今後の行動ですが、やはり全員で行動すべきだと私は思います。この戦力で一網打尽にされる事は考えにくいので、各個撃破されるより
はるかに安全かと」
「それより2,3人でペアになって片っ端から調べた方が時間が節約できるんじゃない?」
「賛成です。1人でいるよりははるかに安全ですから。ですが1組ぐらいはここに残った方が…」
とシオンたちは話し出す。
そこで志貴はふといい案を思いついた。
「なあ、相手が琥珀さんなんだったらしびれをきらすのを狙って俺たちここに篭城ってのは…駄目か」
さつきら一部を除いて全員から浴びせられる冷たい視線にがくっとくる志貴。
「じゃあわたし志貴とペア組むわね。それじゃあ行きましょう」
「「ちょっと待ちなさいっ!!」」
いきなりの展開に真っ先に反応を示すシエルと秋葉。
もちろんアルクェイドが志貴の腕を握ってそのまま行こうとしていたからだ。
「なんで兄さんとあなたがペアになるんですか!」
「そのとおりです! 遠野くんはわたしと組むんですから!」
「それも違います! 兄さんはわたしと組むんです!」
「何を言ってるんですか! 屋敷のことを知ってる人が組んだって意味ないじゃないですか!」
言い争いをはじめる3人。
志貴は黙って椅子に座りそれが終わるのをただ眺める事にした。
「…志貴、どちらにしてもこの部屋にとどまるのはよくないと思います。先ほどもこちらから七夜たちが出てきましたから」
「…だよな。シオンもやっぱそう思う?」
向かい側に座るシオンと相談しあう志貴。
さっきここから出てきた四季は危ないと断言していた。
だがここには変わった様子はないのだが…。
かしゃん。
「へ?」
「な…っ!」
「え?」
「おい、これって…」
「…!」
座っていた五人はいきなりの展開に驚いた。
何しろ椅子やソファーから金属が飛び出し、四肢を固定したのだから。
そして、椅子の下が開いた。
「これは…?」
「やっぱ遊園地でよく見る…落ちものってやつだよね…」
ひきつった笑いをうかべるさつき。
あー、こうきたかと頭を抱える志貴だったがもはや時遅し。
「「「「「わああーー……」」」」」
五人の椅子やソファーはその空いた空間に落ちていった。
「兄さん!」「遠野くん!」「志貴!」
その場に残った3人はその展開を見ているだけしかできなかった。
そしてその空間の扉は閉まる。
シエルや秋葉がそれを破壊しようとするが、やはり破壊できない。
「こ…琥珀のやつー…!」
「…」
手を振るわせる秋葉。黙ってそれを見るシエル。
アルクは食器を片付けて扉に手をかけた。
「いくわよ。いつまでもこんなところにいてもしょうがないわ」
「アルクェイド…」
「志貴たちなら大丈夫でしょう? だって志貴がいるんだから」
その言葉はアルクェイドから自然に出たものだ。
だが、その言葉は何よりも絶対の自信に満ちていた。
そんな事で倒れる志貴ではないと。
「…そうですね」
「わたしたちが琥珀をしめたらこのばかげたあとらくしょんとやらも終了みたいですから」
秋葉も立ち上がった。
3人のヒロインはランプを手に持ち、誰もいない居間をあとにしたのだった…。
屋敷に迷い込んだものたちの運命はいかに?
続くかは正直未定!