その話は一日にしてハウス中に伝わった。
もちろん、一緒に部屋にいた私とのトコロにもその話は伝わった。
「ホントにっ!?」
「・・・・・・・・・。」
エルが帰って来ることが嫌な訳ではない。嫌な訳がない。
むしろ彼女のように飛び上がって喜びたいくらいだ。
が、彼女 ── があまりにも嬉しそうに頬を染めるものだから。
だから、それも出来なくなってしまう。
いや、元々飛び上がって喜ぶなんてこと私には出来ないけれど。
素直に感情を表に出せない自分に自嘲気味になりながら、
モヤモヤした想いと共に、パチリ、パチリと“L”の字が入った真っ白なジグソーパズルを続けた。
「ねぇ、ニア!聞いた!?エルが帰って来るって!!」
「・・えぇ。良かったですね。」
「良かったですねって、ニアは嬉しくないの?」
「・・・・別に。」
「えー!久しぶりに帰って来るんだよ?」
相変わらずパズルを続ける私の頭上に
「私は嬉しいけどなぁ〜。」と、甘い声が降った。
その日、パズルは“L”の部分だけはピースをはめずに終えた。
夜、ひたひたと廊下を誰かが歩く音で目が覚めた。
何だかんだ言ってもエルが帰ってくることに、やはり興奮しているのだろうか。
普段なら目が覚めないであろう小さな音で目が覚めてしまうあたり、体は正直だな。なんて思う。
無意識に時計に目をやると、
日付は既に変わり針は“3”の部分を指していた。
「そうか。もう今日なんだ。」
思考がはっきりとしないながらもそんなことを思い部屋のドアを開けた。
薄暗い廊下、“ひたひた”の正体はやはり彼女で。
「・・・どうしたんですか。」
私は部屋からは出ずに、通り過ぎようとする彼女に声をかけると
彼女は一瞬、体をビクリ。とさせ振り返った。
「な、なんだぁ・・ニアかぁ・・・。」
「こんな時間に一体何をしているんですか。」
「え。あー・・・なんだか眠れなくて。」
そう言う彼女を部屋に招いて数時間。
彼女は目に付いた本をぱらぱらと捲ったり、私のベットを整えたり、
うろうろと部屋の中で落ち着かない。
眠さのせいで未だ思考がはっきりとしないながらも、
私の目は彼女の姿を追うことに必死で。
それからしばらくして、は外の景色を見ようとでも思ったのか、カーテンをくぐってしまったので
私にはカーテンの下、パジャマから少しだけ覗く彼女の白い足しか見えなくなってしまった。
カーテンからチラリとだけ見える足をぼんやりと眺めていると、
わずかに揺れたカーテンの向こうから、眠さを感じさせない声が聞こえた。
「あ。ニアー!ニア見て!外が白くなってきた!」
「・・“明るくなってきた。”でしょう。」
「だって白いんだもん!」
にならってカーテンをくぐり窓から半身を乗り出すと、
確かにそこはキラキラと眩しいくらいに真っ白で、
露に濡れる庭の草達が朝が来たことを告げていた。
柄にもなく外の風景に見とれていると、少し遠くでギィィ・・。とドアが開く音がした。
それは、早朝なのを気遣ってかものすごく小さな音だったけれど。
「帰って来たみたいですね。」
「・・え?」
音には気付かなかったを連れて玄関まで行くとやはり彼が帰って来たところだった。
何もこんな早朝に帰ってこなくてもいいのに・・なんて思いながらも、
一晩中起きていた私たちは彼を出迎えた。
「エル!お帰りなさい!!」
「・・・お帰り・・なさい。」
彼は時間が時間なだけに出迎えられるなんて思っていなかったのだろう。
特徴的な目を一瞬だけ大きく見開いた。
その後彼は背を低くして私たちを観察するかのようにジロジロと ──
── と、いうよりはギョロギョロと見つめた。
「もしかしてずっと起きていたんですか?ココが私とおそろいですよ。」
そう言って、エルは微かに口角を上げて
自分の目の下をトントン。と、その骨ばった指で軽く叩く。
そこに触れた指にまで色がついてしまいそうなほどに濃い彼の隈を見て、
私は思わず「そんなにひどくありません。」と小さく口にしてしまった。
どうしてだか刺があるような言い方になってしまったが、
それは、が嬉しそうに彼の服の裾を掴んでいることとは関係ないはずだ。
私が小さく口にしたそれが聞こえていたのだろう。
彼 ── エルは微かに上げていた口角をもう少しだけ上げた。
「子供がそんな顔でいるのはあまり喜ばれないですよ。
起床時間までまだあるでしょう。さぁ、少し寝てきたらどうですか?」
「じゃぁ、エルも一緒に寝ようよー。」
がその言葉のあとに「ね?ニア?」なんて付け加えなければ。
私はすごく複雑な気持ちになりながらも「エルだって寝ていないでしょう。」と言った。
「私はいいんですよ。・・でも、まぁ、たまにはあなたたちと寝るのもいいですね。
それに、私を待って起きていてくれたのでしょう?嬉しいですからね。」
別にエルを待っていて起きていた訳ではない・・・が、あながち嘘でもないのかな・・
なんて思っている間にもエルはを抱え上げて寝室へと向かおうとしていた。
私はせめてエルをの隣にはしないようにと、ベッドへ下ろされた彼女の隣へ素早く潜り込んだ。
それを見たエルがまたしても口角を上げた気がしたが、私が確かめるより先に彼は
「では、おやすみなさい。」と言って私の隣で目を閉じた。
彼にならってと私も目を閉じた。
そのとき、自分がなぜかすごく笑顔だった気がするが確かめる術はない。
無意識に目の下を確かめるように触って、私はすぐに眠った。
おそろいだった目の下の黒はもうなくなってしまうかもしれないけれど。
目覚めるときも、両側の、大好きな人たちと共に。
Dream Top
とりあえず皆エルが好きなんだよって話。
私がニアと夜更かししたいんだよって話。(061029@ひよ)